部門別採算制度でもう一つ画期的なことは、そのスピード感だ。路線統括本部で国内路線事業本部長を務める菊山英樹によれば、速報ベースながら「毎日すべての便の収支を把握している」という。破綻前は、便ごとの収支がわかるまでに、2カ月を要していた。それがいまでは即日だ。

国内路線事業本部長・菊山英樹氏

航空会社が採算を上げるポイントは、需要動向の変化を素早くとらえ、いかに需要に応じた大きさの飛行機を配置するかにある。予測が外れると、売り逃しが発生したり、大量の空席を埋めるべく安売りせざるをえない状況になるからだ。

このスピードが効果を発揮したのが、3月の東日本大震災のときだ。被災地から離れる人、被災地に支援に赴く人で、利用者が大きく増えた。菊山たちは人の流れの変化に素早く対応して、東北方面行きの飛行機を増便した。その結果、さすがに4月こそ赤字に陥ったものの、5月には黒字に復帰した。

JALでは月1回3日間にわたって、全役員、本部長、グループ会社の社長などが出席して、業績報告会が開かれる。当然、会長の稲盛和夫も出席する。収支の責任を負う菊山や米澤 章は、ここでは叱られ役だ。稲盛が「もっとも重要」と位置づけるこの報告会では、稲盛の怒号が飛ぶ。菊山は一度、「おまえは評論家か!」と、大変な叱責を受けた。「イヤ本当に、机を叩いて、もう顔を真っ赤にして怒りますからね。逆に言うと、これだけ真剣に自分のことを叱ってくれる上司は、これまで本当にいただろうかと思いました。ですから、まさに真剣勝負です。大変なのは、予測が下回ったときだけでなく、上回ったときも『現状を把握していない』と叱られるんです。緊張の連続です」。

国際線路線事業本部長・米澤 章氏

一方、米澤は部門別採算制度の手ごたえも感じている。「以前は立てた目標があまり的中しなかった。それが毎月的中するようになると、現場の士気がものすごく高まるのがわかる」。

では、このJALの再生劇は、われわれに何を教訓として示すのか。

1つには、企業人として当然のことを実行するのが、いかに難しいかということである。取材に応じてくれた誰もが、異口同音に「JALフィロソフィに書いてあるのは、ごく当たり前のことです」と語る一方で、「その当たり前のことが、破綻前はできていなかった」と、付け加える。これは平時においては、当たり前のことを、当たり前に実行することの難しさを示している。

2つ目は意識改革の難しさである。「倒産したのに、飛ばせていただいていることに感謝している」という趣旨の言葉もJAL社員は、みな口にした。

確かに、JALは100%減資をして40万人を超える株主に迷惑をかけ、5200億円にものぼる借金を免除してもらい、企業再生支援機構から、本をただせば国民の税金である3500億円もの出資をしてもらった。通常、企業が倒産すれば、このような処遇はありえない。