SBIも公的資金返済の計画は持っていない
特に、公的資金返済に関しては、北尾社長は、「20年以上にわたって公的資金を返済できない唯一の銀行だ」「自分たちが金を借りてて、返さないなんてありえない。金を返さないっていうのは、泥棒と一緒」と、新生銀行を批判してきた。
しかしながら、実は、SBIも公的資金返済に向けた計画は持っていないのだ。TOB届出書においても「SBIHDらにおいても内部的に具体的な返済方法については本日現在未定」となっている。SBI自身にも何ら具体策はなく、北尾社長もただ「全力を尽くする」「新生銀行と心を一にし、公的資金3500億円返済の大義を果たす」と浪花節で表明するだけだ。
新生銀行における公的資金要返済額3494億円を前提とした場合、必要となる株価は7448円とされ、2021年11月26日時点の株価1935円からみても、はるかに高い水準にある。スタートアップの株価ならともかく、規制業種で斜陽産業となった既存銀行の株価を4倍近くに上げることは、さすがのSBIでもすぐにできるものではない。業績を4倍にするならともかく、株価を4倍にするのは、後者の方が不確実性も高く、より難度は高い。公的資金返済には、秘策も奇策もないのだ。
「非上場化による公的資金返済策」でも収益は必要
それでも、SBIが新生銀行を実質的に子会社化し、新たなビジネスモデルを導入した上で、非上場化して、市場価格ではない「事業価値」を基にした株価算定により、公的資金を返済するという「非上場化による公的資金返済策」が秘策や奇策として、まことしやかに語られている。日本経済新聞(2021年9月10日)によると、金融庁がSBIによる新生銀の買収容認に傾いたのは、「非上場化して、ビジネスモデルを抜本的に変えてくれるかもしれない」という期待からだという。
とはいえ、現在の株価では返済できない公的資金を、非上場化した後に、時価に関係なく返す手法には違和感がある。また、その場合でも、「事業価値」の核となる新たなビジネスモデルの確立と巨額の返済原資が必要であることに変わりはない。
その新たなビジネスモデルとは、SBIの掲げる「第4のメガバンク」構想の中核に新生銀行を置き、資本・業務提携する地銀との関係強化などにより、「企業価値」を上げ、公的資金の返済にもつなげるというものだ。SBIでは、新生銀行の最終利益を710億円(2025年3月期)と、前期(2021年3月期)の同451億円から1.5倍以上に拡大させるとしている。
しかしながら、そもそも「第4のメガバンク」構想に参加する島根銀行や福島銀行などの地銀は子会社化された訳でもなく、仮にそれら弱小地銀8行に、新生銀行を加えたとしても、たかだか総資産は22兆6000億円だ。
3大メガバンクの一角であるみずほFGの総資産225兆5000億円に対して、10分の1程度の規模であり、上位地銀1行レベルの規模にすぎないのだ。