なぜ「仕組みをつくる」と「実行力が生まれる」のか

私がマニュアルで実現しようとしたのは、次の5点です。

・業務の質を一定レベルにそろえたい(標準化)
・業務のムダをなくし、生産性を上げたい(効率化)
・仕事を属人化しない(見える化)
・社員やスタッフの教育ツールとして使いたい(教育)
・無印良品の哲学、理念を隅々まで浸透させたい(社風づくり)

この5点が機能すれば現場のフットワークが軽くなり、実行力のある組織になると考えていました。

かつての無印良品では、本部が全国共通の販売企画を考えても、各店で実行されるまでに相当なタイムラグが生じていました。

一方でイトーヨーカ堂が強いのは、本部から通達があると翌朝にはすべての店の売り場が出来上がっているぐらいに、実行力に優れているからです。セゾングループではそれが、一週間から10日ぐらいかかっていました。店ごとに商品の配置を考えたり、企画を独自にアレンジしたり、まったく足並みがそろっていなかったのです。

機動力のある現場にするためには、仕事を標準化するのが第一です。たとえば、新生活応援キャンペーンを店舗で開催する際には、何日までに冷蔵庫とレンジと洗濯機を店のどの位置に置くか、パネルをどこに飾るかなどをすべて決めてあるので、翌朝までに売り場をつくることができます。

こういう判断を店側に任せるのではなく、すべてマニュアルで定めておくと、現場のスタッフが判断に迷わないだけではなく、入ったばかりの新人スタッフでも対応できます。誰でも、いつでも実行できるようにするのが、標準化の強みです。

複数の付箋が貼られたマニュアル
写真=iStock.com/pinkomelet
※写真はイメージです

自分の頭で考えるには、基本となる“型”がいる

実際にMUJIGRAMを作成し、運用するうちに、マニュアルには以下のような想像以上の効果があると感じました。

① 「知恵」を共有できる

人は、一人でできる仕事は限られていますし、経験も知識も限界があります。自分で経験することなく、多くの人の知恵や知識を身につけられたら、成長をショートカットする効果があります。それを実現できるのがマニュアルです。

MUJIGRAMは本部だけでつくるのではなく、現場(店)で働いているスタッフの知恵をすくい上げて一つにまとめています。これにより、すぐれた知恵や経験を全員で共有できるようになり、個人の経験や知識を組織に蓄積できます。

② 「標準なくして、改善なし」

能の世界には「型破り」という言葉があります。伝統的な能の“型”を、実力のある演者がアレンジして新たな創造につなげています。

そういった創意工夫は、基本の“型”があってこそできるもの。無印良品のマニュアルも、“型破り”を繰り返しながら進化する、“血の通ったマニュアル”です。

仕事を標準化させるということは、その業務の最善・最適な方法を一つだけ決めるということになります。

たとえばフォルダの管理の仕方は、人によっても部署によっても異なり、必要な時に欲しいデータがなかなか出てこないのはよくある話です。これを部署で「この関連の資料はこのフォルダに入れる」と決めれば、担当者が休んでいても誰でも対応できるようになります。

そのように一つのフォーマットをつくりあげると、さらに使いやすくするアイデアが集まってきます。そうやって実行と改善を繰り返すうちに、業務はより洗練され、進化していきます。

標準をつくらないうちに改善しようとしても、迷走するだけです。何事も基本なくては応用がないのと同じで、無秩序な創意工夫は力になりません。

仕事も基本となる標準を固めないと、社員が応用して自分の頭で考えて働けるようにならないのです。