従うのではなく、つくる人になれるか

MUJIGRAMも業務基準書も、目的は「業務を標準化する」ことです。

それまでの無印良品では、店長が思い思いに店をつくり、スタッフの指導も店ごとに違っていたので、バラつきがありました。

どこの地域の無印良品に入っても、お客様に「無印らしさ」を感じてもらえるようにするには、店づくりも接客などのサービスも統一する必要がありました。

「この仕事は、あの人にしかできない」という状況は、本人にとっては誇りになるでしょう。無印良品にも、そのように社内で一目置かれている社員はいました。

しかし、本人が定年退職や突然の病気、転職などで抜けたら何も残りません。組織の未来のためには属人化ではなく、標準化するのが最善の道でした。

MUJIGRAMを読まずに店舗のスタッフが本部に質問しても、「それはMUJIGRAMで確認してください」と突き放すことになります。もしMUJIGRAMに書いていなかったら、それは新しいノウハウとしてMUJIGRAMに追加されることになります。

そこまでマニュアルを重んじていたら、社員やスタッフが自分の頭で考えなくなり、マニュアル人間化してしまうのではないか、と思う人もいるでしょう。

しかし、そもそも無印のマニュアルは社員やスタッフの行動を管理し、制限するためにつくっているのではありません。むしろ、マニュアルをつくり上げるプロセスが重要で、全社員・全スタッフで問題点を見つけて改善していく姿勢を持ってもらうのが狙いです。

ただマニュアルに従うのではなく、「マニュアルをつくる人」になれば、自然と自分の頭で考えて動く人材になります。

マニュアルをつくったところから、仕事はスタートする

社員がマニュアルに依存してしまっているとしたら、そのマニュアルのつくり方や、使い方に問題があるのでしょう。

マニュアルによって、社員の仕事のレベルを均一にしたいのか、コストを削減したいのか、作業時間を短縮したいのか……企業によっても部署によっても、解決したい問題は異なります。これが定まっていないと、効果のないマニュアルになりかねません。

無印良品の店舗では店長が必ず常駐しているわけではなく、休暇や出張などで不在にしている場合も多くあります。そのうえ、店長でもマネジメントは不得手な人もいる。

それでもMUJIGRAMがあるから、いつでも滞りなく現場にいる人だけでお店を回せるようになっています。

店長などの社員は店舗の異動もあります。それでも現場が混乱しないのは、MUJIGRAMでどこの店でもすべての作業が標準化されているからです。新しい店長になっても指示内容が変わることはないので、スタッフは今までと同じ作業を続けます。

MUJIGRAMは変更点があっても、すぐに全店で共有されます。すると、基本的にお店の全員が同じ作業をするので、そこで「自分はこうやろう」「面倒だから、これを省こう」と、自分だけ違うやり方をすることにはなりません。空気のように当たり前の仕組みになれば、100%実行されます。

マニュアルは常に社員全員でつくりあげる“仕事の最高到達点”であるべきだと、私は考えています。そのためには、定期的に改善し、更新していく必要もあります。

マニュアルをつくったら、そこで一つの仕事は完成し終わったと考えてしまいがちですが、そうではありません。マニュアルをつくったところから、仕事はスタートします。MUJIGRAMに完成はなく、永遠に進化し続ける、生きたマネジメントツール(仕事の管理をする道具)なのです。