脱・低欲望社会の鍵は親の教育だ

とはいえ、現在でも世界を目指す意欲的な人間は日本でも育つ。鍵は、親の教育だ。

例えば、バイオリニストの廣津留ひろつるすみれさんだ。彼女は2歳でバイオリンと英語を習いはじめ、4歳で英検3級に合格した。高校まで地元の大分市に住んで公立の学校に通い、16歳のときにカーネギーホールでソロデビューしている。その後、ハーバード大学に進もうと決め、高校3年の12月に合格した。ハーバードでは応用数学、社会学などを勉強して、主専攻は音楽を選んだ。16年にハーバードを首席で卒業すると、ニューヨークのジュリアード音楽院の大学院に進学し、ここでも首席で卒業した。

廣津留すみれさんが幼い頃から音楽と英語に打ち込んだのは、母親の真理さんが上手に導いたからだ。英語塾を主宰する真理さんは、日米の育児書を200冊ほど読み込んで独自の教育方針を立てたそうだ。

廣津留すみれさんを見ていると、親のオリエンテーションが重要であることがよくわかる。イチロー、タイガー・ウッズなど、親が熱心だったスポーツ選手と同じだ。音楽でもスポーツでも文科省の指導要領の範囲外で良いコーチに恵まれれば、今でも世界的なレベルに達する。

司馬遼太郎の言う「坂の上の雲」を目指している頃は問題がなかった。戦後の成長期もいい学校を出ていい企業に就職すれば昇進と昇給があった。ところが、ここ30年くらいは学習指導要領どおりの教育をする普通科に通って大学に進学し、新卒一括採用でサラリーマンコースを目指す人材の“低欲望”が、日本人の所得が伸びない最大の原因となっている。

私が若い頃は、小田実のエッセイ『何でも見てやろう』、小澤征爾の『ボクの音楽武者修行』、テレビ番組の『兼高かおる世界の旅』などで海外への夢をふくらませたものだ。現代の子どもたちも、まずは親がいい刺激を与えていけば、世界へ羽ばたいていけるはずだ。そういう親が増えていけば、日本の国力向上につながるということに早く気が付いてほしい。

(構成=伊田欣司)
【関連記事】
東京随一の"セレブ通り"を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ
「バラマキ政策で財政破綻はウソ」財務次官が勘違いしている日本経済の"本当の危機"
「岸田政権はさっさと潰して構わない」安倍氏と麻生氏の全面対決が招く"次の首相"の名前
「お金が貯まらない人は、休日によく出かける」1億円貯まる人はめったに行かない"ある場所"
「このままでは国家財政は破綻する」財務次官による"異例の寄稿"本当の狙い