米国の投資家は中国企業への投資を手控え
改革開放以降の中国では“先富論”が重視され、ITや通信など重厚長大以外の分野で民間企業が急成長した。その結果、BATなどIT先端企業の創業経営者にあこがれる人は増えた。
その状況が続けば共産党指導部による経済運営力は弱まり、習氏の求心力は低下するだろう。その展開を防ぐために習政権は民間企業への締め付けを強めた。アリババ傘下のアント・フィナンシャルの株式新規公開(IPO)延期、IT先端企業に対する社会慈善事業の強化指令は顕著な例だ。
政治が民間企業の事業運営をより強く制約するとの懸念から、中国企業への投資を手控える米国の投資家は増えている。シンガポールの政府系ファンドも中国IT先端企業への新規投資を一時的に止めた。米中の首脳会談でも明らかになったように、習氏は党の計画と指揮に基づいた経済運営(国家資本主義)体制の強化を重視している。中国の政治リスクを警戒し、中国株などへの投資に慎重になる主要投資家は増えるだろう。
天安門事件以来の「実質GDP成長率5%未満」も
11月に入ると遼寧省大連市で感染者が発生した。2022年2月の北京五輪を成功させたい共産党政権は“ゼロコロナ”対策を徹底している。その姿勢は非常に厳格だ。接触者は追跡され、感染者との接触の疑いがある人は隔離される。経済活動に不可欠な動線は寸断され、飲食、宿泊、交通などサービス業の収益環境は悪化している。水産加工などの生産活動も停滞している。中国の景気減速懸念は高まっている。
懸念されるのは、市民の間で強制的な感染対策への批判や不満が増えていることだ。その状況が続けば、共産党政権の求心力が不安定化し、先行きの社会と経済への懸念は追加的に高まるだろう。その展開が鮮明となれば、自動車や旅行など個人の消費は一段と落ち込むことが予想される。それに加えて、道路や高速鉄道などインフラ投資による景気刺激策の効果も低下している。
不動産市況の悪化、政治による経済圧迫、感染再拡大による動線寸断や社会心理の悪化は今後の中国経済にマイナスだ。その見方に基づいて2022年の中国実質GDP成長率を従来から引き下げて5%未満に落ち込むと予想する中国経済の専門家が増えている。中国の成長率が本当に5%を下回れば、天安門事件後の社会混乱によって成長率が落ち込んだ1990年以来だ。