茨城県に本店のある「サザコーヒー」は、都内を含む15店舗で最高級豆「パナマゲイシャ」を扱う。社長の鈴木太郎さんは、今年のオークションでは100ポンド(約45キログラム)のパナマゲイシャを約2833万円で落札した。なぜ世界で最も高いコーヒー豆を、そこまでして買うのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんが聞いた——。
茨城県ひたちなか市の新工場で挨拶するサザコーヒーの鈴木太郎社長
写真=筆者撮影
茨城県ひたちなか市の新工場で挨拶するサザコーヒーの鈴木太郎社長

最新設備を備えた新工場をオープン

10月27日の水曜日、茨城県ひたちなか市は小雨交じりのパッとしない天気だった。

そんな中、JR勝田駅からクルマで約10分の場所には次々と人が集まってきた。市内に本店がある「サザコーヒー」の新工場披露式が開催されたのだ。参加者の中には大井川和彦・茨城県知事の姿もあった。

茨城県ひたちなか市にある新工場の外観
写真=筆者撮影
茨城県ひたちなか市にある新工場の外観

当日はコロナ対策で3部制に分け、招待人数も絞った。壇上では長髪を束ねた鈴木太郎社長(52)が熱っぽく語る。マイブームの発案者・みうらじゅん氏(クリエーター)の感性に憧れて髪を伸ばすなど、米国西海岸のカフェオーナーにいそうなタイプだ。

父の誉志男さん(現会長)がサザコーヒーを創業した年(1969年)に生まれた太郎さんは、昨年6月に母の美知子さん(現取締役)の後を継いで社長となる。この日は、コロナ禍で見送った社長就任式も兼ねていた。

ありがちな二世の後継者に思うかもしれない。だが「人は見た目が9割」なのか。

最高級の「パナマゲイシャ」を2833万円で落札

「この工場には最新鋭のコーヒー焙煎機を導入しました。ドイツ製プロバット(PROBAT)の半熱風式焙煎機と米国製ローリング(LORING)の熱風式焙煎機です。サザコーヒーが世界各地から仕入れた良質なコーヒー豆を、各豆の持ち味を生かしながら焙煎できます」

こう話す太郎さんは、一般社団法人・日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)理事兼コーヒーブリュワーズ委員会委員長でもある。スペイン語が堪能で、コーヒー品評会の国際審査員も担当。出身校は東京農業大学で果樹園芸学を専攻した。現在は筑波大学大学院で農産食品加工を学び、「焙煎後のコーヒー豆の保存方法と品質劣化」も研究している。

現在の最高級豆「パナマゲイシャ」(中米パナマ産のゲイシャ品種)を日本に広めたのもこの人だ。長年コーヒーオークションに参加し、今年9月に行われたパナマ産ゲイシャのオークションでは、100ポンド(約45キログラム)の豆を昨年の約2倍となる2833万円の史上最高値で落札した。輸送費、検疫費、焙煎費や利益を勘案すると、「コーヒー1杯3万6000円」で出さないと採算が合わない。