夢を手放すのはもったいない

――大学教員から獣医師へ、さらに作家へ。それぞれが意外な選択に思えます。

【茜】第三者から見ればそう感じると思います。ただ私が小説を書くという夢を描いたのは、もう20年も前、新聞記者時代のことでした。「明日になったら本気出す」(笑)とぼんやり寝かせていたんですね。

――「科学の面白さを伝えたい」と考える茜さんにとっては、すべてが「1本の道」だった――。これまで「あきらめる」という選択をしたことはありますか?

【茜】振り返ってみると、「方向転換」はあっても、「あきらめる」ことはなかったように思います。一度抱いた夢ならば、それを手放してしまうのはもったいない。ゆっくりじっくり温めながら、機が熟すのを待つのです。気力、タイミング、そしてチャンス。三拍子がそろうときが必ず訪れますから。

明日一生が終わるとしても、後悔しない人生を

――では、小説家の次に描いている夢、キャリアについて教えてください。

【茜】「商業作家」の範囲を広げて、敬愛している科学者の評伝を書きたいと思っています。その人物を多面的に捉えるためには、海外の研究者を含めた周辺の人々への取材が欠かせません。もっと英語力を磨きたいですね。あとは、わかりやすい文章を書く技術をもっと広めていきたい。そのための後進の育成にも励みたいと思っています。私たちが生きているのは、地球46億年の歴史のなかのほんの一瞬です。でもその一瞬に何が起きたのか、人々は何を感じ、どう行動したのか、それを後世に文章で残していきたい。そのためにできることを、ひとつずつ丁寧に取り組んでいこうと思っています。

――最後に、人生の最終目標はどんなことですか?

【茜】もともと、人生をかけて成し遂げたいことなどないんです。しいて言えば、「たとえ明日死ぬとしても、『ああ、いい人生だった』と笑って死にたい」。それぐらいでしょうか。私の言う“いい人生”とは、おそらく世間一般のそれとは違うでしょう。敷かれたレールで幸せになるよりも、心の声に従って、湧き出る欲望を満たして生きていきたい。それが何より大切なことだと思うし、そのようにしか生きられない。それが私の性分、そして宿命なのだと思います。

(構成=本庄真穂)
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