「教育委員会も逆らえない」強い権限を持つ校長

教育者なら、校長からいじめ解消率を上げるように圧力をかけられたとしても、きちんと対応してほしいと思うものだ。だが、「校長に逆らうのは難しい実情もある」と教員たちは訴える。

「学校では校長が教員の人事権を握っているので、絶対的な力を持っているんです」(S教員)

「私の学校では指導力のある素晴らしい教諭が、校長先生ににらまれて、結婚が決まって新居を買った一週間後に、東京都の島に飛ばされたことがあります。目標申告シートというのがあるのですが、それに対してSABCDの5段階評価をつけられます。ここで校長にCをつけられると『島流し』、Dをつけられると『センター送り』になるんです」(Y教員)

センター送りとは、水道橋にある「東京都教職員研修センター」のことだ。別名“ダメ教師収容所”で、そこに入れられると教師失格の烙印らくいんが押されて後々まで影響があるという。

さらに、学校を監督する立場にある教育委員会も、実際には校長に頭が上がらないのだと教えてくれた。

「校長はたいてい、教育委員会を経てから校長になる。つまり、年次でいうと、教育委員会の職員よりも校長のほうが上。そして、その校長は数年前までは教育委員会にいたわけですから、付き合いが濃いわけです。だから、たとえ重大事態が起きても、教育委員会は校長の責任を追及するようなことはやりにくいんです」(神奈川県の中学校勤務M教員)

「いじめ」を生み出しているのは誰なのか

絶対的な権力を持って学校に君臨する校長。もちろん、その校長にも屈しない気骨のある教員はいる。だが、「残念ながらそういう先生は昇進しない」という。

「いまの評価制度のなかで昇進するのは、校長にこびて、言われるままにいじめを隠蔽してしまうようなタイプの教師ばかりなんです。一方的な人事評価を変えて、平の教師に校長を評価する仕組みをつくってほしいです」(S教員)

NPO法人プロテクトチルドレン代表の森田志歩さんは言う。

「学校や教育委員会の対応に問題があると責めるのであれば、なぜ、そういう対応になるのか原因を明らかにしない限り、問題は改善しません。私自身の経験では、被害者に寄り添うのはもちろんですが、加害者や教員、教育委員会の話にも第三者的な立場でしっかり耳を傾け、そのうえで彼らの問題点を明確にしていくことでいじめ問題は解決していきます。いまいじめの問題が解決せず、同じことが繰り返される理由は、本当の意味で第三者的に対応できる人がいじめ問題の現場にいないことにあるのです。そういう専門機関をつくることを提案していきたいと思っています」

子供が行う陰惨ないじめは、大人の社会の縮図だ。いじめ自殺をゼロにするには、ただ学校や教育委員会を責めるだけではだめなのだろう。一方的に誰かを叩く構図は、学校で行われているいじめと変わらないのかもしれない。

そして、町田市の事件で遺族が望んでいるのは、小学6年生で自ら命を絶った娘に何があったのか、真相を知りたいということだ。その切なる願いが、しっかりとかなえられることを願っている。

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