石川遼にアドバイスを求めて得た結論

心と体がかけ離れる。ジレンマが心も体もむしばんだ。追い詰められたシブコは脱出の糸口を探し、そのヒントを石川遼に求める。

石川は高校時代のアマチュア時代に並み居るプロを破って優勝を果たし、「スマイル王子」と呼ばれ、笑顔とともにスター選手になった。アメリカに渡りメジャー優勝を目指すも挫折、日本に戻ってからも完全復活ができない。悩み多き日々を送っている。同じ境遇の石川にシブコがアドバイスを求めたとしても何の不思議もない。

そうしたことなどからシブコが得た結論は、<自分を捨てる>ことだった。

「2019年の自分を捨てることに決めました」

それは日本人女子選手として2人目、42年ぶりにメジャー優勝を成し遂げたことを忘れようということである。どこへ行ってもメジャーチャンピオンの冠が付いてくる。試合が始まるときの紹介も「全英女子オープンチャンピオン、渋野日向子選手」とアナウンスされる。

そうなれば下手なゴルフはできない。世界王者にふさわしいプレーを見せなければならないと力が入る。良い結果になるわけがない。名誉が重圧になってくる。勝てない日々が続けば何トンもの重石が背中にのしかかってくるというわけだ。

だったら重石はもちろんのこと、もはや何もかも捨ててやろうと決意するのである。

なぜメジャー優勝をもたらしたスイングを捨てたのか

シブコが捨てようとしたものの中で、物理的なものはスイングである。

自分を世界のメジャーチャンピオンにしたスイングを捨てる。その決断は並大抵のことではない。子供の頃から培ってきたスイング。自分をプロにしてくれ、日本の女子ツアーで4勝を挙げさせてくれ、世界のシブコにしてくれたスイングと決別するのだ。

「このままのスイングでは世界では通用しない」

それは日本ツアーしか見ていなかった女の子がいきなり世界の頂点に立って思い知らされたことだった。全英女子オープンに優勝して、アメリカのLPGAツアーへの出場権を獲得、世界のトッププロたちと毎週戦うようになった。そこで思い知ったのは世界の実力と自分の実力との歴然とした差である。

当初は戦えると思っていたはずである。なにせメジャーを獲得したのだから。しかし、いざ、アメリカで毎週戦ってみると、まず飛距離が大幅に違う。

アメリカでは飛ばす選手は280ヤードを超す。自分はといえば240ヤードも超せない。グリーンを狙うクラブは4番手以上も変わってしまうのだ。池越えのホールも多く、グリーン手前から乗せることはできない。スコアを作るには飛距離アップは必然だった。