いずれにしても、このように、中間層から富裕層の家庭では、とにかく勉強至上主義が横行しており、教育費に湯水のごとくお金をつぎ込んでしまう人もいる。その結果、しつけや道徳は二の次になってしまい、いつまでたっても靴紐を結べなかったり、食卓でも親に料理を取り分けてもらったりすることを「当たり前」と思ってしまう子どもが増えているのだ。
また、オンラインゲームなども「勉強のしすぎ」による反動で、週末は1日中ゲーム漬けとなってしまう子も多く、政府がゲームを「精神的アヘン」と呼ぶまでになった。今回の法律では、未成年の子どもに、「部屋の片づけを他人任せにさせないこと」が明記されたが、そのようなことまで記載せざるを得ないほど、道徳や常識に欠けた子どもが大量にいる、ということだろう。
貧困家庭も別の問題でしつけが行き届かない
一方、貧困層の場合、また違った問題が生じている。現在では、もちろん貧困層の家庭でも、ほとんどの子どもたちは学校に通っているが、学習塾に通う経済的な余裕はないし、そもそも農村には学習塾も存在しない。そのため、富裕層の家庭との教育格差が生じてしまうが、それだけでなく、農村では両親が都会に出稼ぎに出ていることが多く、家には祖父母しかいない、という家庭環境がある。
このような子どもは「留守児童」と呼ばれ、全国に6000万人以上もいると推定されているが、祖父母も生活するだけで精一杯なため、子ども(孫)のしつけにまで手が回らない。両親は1年に2回くらいしか帰ってこないため、基本的なしつけや社会常識を教えることはできない。むしろ、たまにしか会わないから、子どもに甘く、生活にゆとりがなくても、無理して子どもに金品を買い与えてしまうという話も聞く。
また、貧困層の場合、両親自身もしっかりとした家庭教育を受けずに育っていることもあり、子どもに何が正しくて、何が間違っているのかを教えられない、という「貧困の連鎖」による問題も生じている。
これらのことに加えて、中国では都市部であれ、農村部であれ、30年以上も「一人っ子政策」を実施してきたことも、家庭教育に少なからず影響を与えてきた、という側面があり、これが、政府がしつけに乗り出す背景にある。一人っ子政策が始まった当初に生まれた子どもは現在40代に入っており、ちょうど今、子育ての真っ最中だ。数年前には「巨嬰症」(大きな赤ちゃん病)も社会問題となった。身体は大人でも、心は赤ちゃんという意味で、きちんとしたしつけがされないまま大人になり、自分の思いどおりにならないことがあると暴れたり、怒ったりする人のことをいう。