自宅があるのに、なぜ高校の近くにもう1軒マンションを借りるかというと、「通学の行き帰りの時間が無駄。深夜まで勉強しているので、通学はしんどくてかわいそうだから」だ。

私の友人(母親)がまさにこれを実践したことがあり、マンションの窓から高校が見えるところに1年間ほど住んでいたが、友人はそれを特別なこととは考えていなかった。「だって、みんなやっているから」というのが理由であり、それをやってあげないと息子がかわいそうだ、と感じるのだ。子どもにとってはすごいプレッシャーなのでは? と思うが、中国の親はそういうふうには考えない。すべてはかわいいわが子のためなのだ。

「先生が生徒に直接お小遣いをくれるんです」

このように、「みんなやっているから」「他の家庭には負けられないから」「いい大学に入学させたいから」という理由で、教育熱は年々過剰になっていった。隣の家の子が1時間2万円の英語の家庭教師を雇っていると聞けば、1時間3万円の家庭教師を頼まないと不安になってしまう。習い事も雪だるま式に増え、1週間のうち休日は日曜日だけ、というハードスケジュールの子どもも多かった。

これはしつけというより親のモラルやメンツの問題なのでは、とも思うが、このような親に育てられた子どもは、当然ながら「勉強さえできていれば、自分は何をしてもいいんだ、許されるんだ」と思い込んでしまい、親をお手伝いさん代わりにこき使ったり、身勝手なふるまいをしたりすることがある。

子どもをそうさせるのは、親だけでなく教師や学校側にも問題がある、と指摘する中国人もいる。コロナ禍前の話だが、小学生の子どもを持つ私の友人は「うちの子どもの小学校では、テストの成績がよいと先生が生徒に直接お小遣いをくれるんです。1回当たりはわずかな金額ですが、勉強は自分のためにすることなのに、学校の先生がお小遣いをあげるというのは、よくないですよね……」と首をかしげていたことがあった。

「勉強以外、何もできない」子どもが増えている

この友人によれば、中国では日本のような給食や掃除当番がない。そのため、皆で協力して何かを行ったりする機会がないことも、勉強ができる人だけが偉い、という風潮に拍車をかけており、「勉強以外、何もできない子」「人間として成長する過程で問題がある子」が増えている原因ということだった。