逃げも隠れもしない彼女の強さ

私自身は、カリコ氏にインタビューをしたあとで、この件について知ったので、本人に確認をしたわけではないが、逃げも隠れもせず、事実を淡々と伝える姿勢がいかにもカリコ氏らしいと頷きながら彼女のこの回答を読んだ。そして、そのことを裏付けるいくつかの記録があることも確認した。

増田ユリヤ『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(ポプラ新書)
増田ユリヤ『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(ポプラ新書)

まず、国家安全保障サービス記録保管所には、カリコ氏の採用記録はあるが(前述の本ではこれを使用)、カリコ氏が書いた報告書の記録はない。

また、Telex.huによると、情報提供者に採用されたという事実だけをもって、国家の諜報ネットワークのアクティブな要員だったとは言えないという。「アクティブ」というのは、報告(文書)をしていた人たちである。大学や研究所など学術界では、採用に署名した後でも、報告をしなかった人は少なくない。

ハンガリーで著名な歴史研究家クリスティアーン・ウングヴァーリ氏によると、このように過去に関する情報が明らかになっても、自分でそれを認める人は非常に稀だそうだ。一方、1985年の米国移住後にも活動していたという一部の憶測については、カリコ氏はきっぱりと否定している。もし活動していたら、それが記録保管所に残っているはずだとした。なお、1945〜89年の社会主義体制下にエージェントとして採用された人は16〜20万人にのぼり、カリコ氏が採用される前は、7000人のアクティブ要員がいたという(以上、euronews.comによる)。

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