こうなると、未来に起こり得る問題への見通しや深い思慮もなく、他国出身者を追い出しにかかった英国人の選択こそが「自業自得」であるようにも見える。
英国が運転手不足にあえぐ状況について、筆者の知人である40代のドイツ人男性は「ポンドが安い、コロナも収まらない。そんなところへ出稼ぎに来いというほうが無理だ」と英国政府の無茶振りを断罪している。
政府試算は4700人、業界団体は「3万人は足りない」
運転手不足は、EU国民が英国内で就労するハードルを上げたこと以外に、コロナ感染の拡大で運転免許試験場での「大型車免許の新規資格取得試験」が大幅に延期され、新たな出願者の免許取得機会が奪われたという別の事情もある。
トラック運転手業界団体の幹部は「臨時就労ビザへの期待はほとんどない」と断言する。「よほど良い待遇でも与えれば、英国に行こうと言ってくれる運転手がいるかもしれない。しかし、たかだか数カ月間のちょっと良い待遇の仕事のために、そこそこもらえている今の仕事を辞めますか? クリスマスまでの2カ月間だけ働けとは虫が良すぎる」と政府の考え方を批判する。
政府はトラック運転手の補充人数を4700人と試算、これに近い数の人材を投入すれば当面の流通危機は回避できるというが、業界団体は「運転手の不足数は少なくとも3万人、多く見積もったら10万人」と事態の深刻さを警告する。英国商工会議所も、臨時就労ビザ発給政策について「わずかな水を焚き火にかけるようなもの」と、まったく機能しないのではないかとの絶望感を示している。
47%が「欲しいものが買えない」異常事態
そんな中、英政府は国民に対して、モノ不足に対する実態調査を行った。その程度がどうか、ということより、先進国の名誉を誇る英国がこうしたアンケートを実施すること自体、状況の深刻さを物語っている。回答としては次のようなものが挙げられている。
・いずれかの必要不可欠な食品が買えなかった……16%
・ガソリン不足で給油できなかった……25%
・いずれかの嗜好品(食品)が買えなかった……23%
・欲しいものが買えなかった……47%
さらに、「店舗の品揃えのバラエティーが減ったと感じる」が43%、「欲しいものがなかったので、代替品を探したがそれもなかった」が21%など、物流遅滞のキズが深まっていることを示す格好となっている。
運転手不足の影響はガソリンスタンドだけではなく、他の業界にも広がる兆しを見せている。最も懸念されているのは、スーパーなどへの食品流通に支障が出ることだ。