最高で「年収1000万円」破格の求人でも集まらず…
運転手が足りないと気づいた英政府は、大慌てで臨時就労ビザ枠を設定、「運転手の英国入りを歓迎する」と打ち出した。求人情報サイト大手のインディードでは「時給17ポンド/未経験者歓迎」という求人のほか、3.5トントラック+牽引車の運転資格を持つ人を対象に「年収6万4000ポンド(最高1000万円)」という破格の求人も登場している。なお、英国でも日本の大型一種免許に相当する大型車の運転免許が必要だ。
9月下旬からの約10日間はEU諸国に300人分の緊急募集をかけたが、反応は芳しくなく、当局発表によると期待された人数の1割にも満たないという惨憺たる結果に終わった。
英国が移民に頼っていたもう一つの大きな産業がある。それは農業関係、特に収穫期作業の従事者だ。昨年のコロナ禍の最中、果物や野菜を収穫する人手がまるで足りないとして、ルーマニアなどからチャーター機で作業員を運んだという出来事もあったが、今年も労働者不足問題は解決しなかったようだ。こちらも5000人ほどのビザ枠を臨時に設定したが、応募に応じた人の数はふるわなかった。
農業従事者も「単純労働者」のカテゴリーにあり、これを理由にEUなどから労働者を呼ぶことは基本的に許されていない。こうした人手不足問題を、例えば英連邦として縁が深いアフリカ諸国からの移民を呼んで、長期的な解決を図ろうという動きもあるが、はたして奏功するだろうか。
「ポンド安でコロナ蔓延の英国に誰が行くか」
2016年にEU離脱の是非を問う「国民投票」が行われた時のことを思い出してみよう。当時はちょうど、中東やアフリカからの難民が次々と欧州へ押し寄せ、EU各国が対策をこまねいていた時期にあたる。離脱を望む人々の願いとして「EU各国間での難民の共同救済はイヤ」「雇用を守るため、EUからの自由なヒトの流入はイヤ」という声も大きかった。
新型コロナウイルスの蔓延という予想外の事態が起きているとはいえ、ブレグジットの完全実施からわずか9カ月で、自分たちの生活を支える働き手が足りなくなるようなことが起こってしまった。
EU出身の運転手にとって、今や英国は良い働き場所ではないという。
通貨英ポンドは、度重なる交渉のもつれもあって、対ユーロのレートは低いままだ。加えて、来年からは英国―EU間の通関検査が本格導入されるため、手続きはより複雑になると見込まれている。運転手は時間給ではなく、運んだ距離によって報酬を得ることも多いが、そうなると遅れが予想される通関検査を伴う英国出入りの輸送を避ける動きが出るのも当然といえよう。