名医探し

白井さんが「神経膠芽こうが腫」について調べたところ、

・浸潤性の腫瘍なので、手術では100%取り除く事は不可能
・手術しても必ず再発する
・再発したら数カ月で亡くなる

など、恐ろしいことばかり出てきた。

脳のがんは、他の臓器のように、全て取り除くことはできない、と言われる。取れば取るだけ機能が失われるからだ。白井さんは絶望に打ちひしがれ、娘たちがいない間は、泣いて暮らした。

脳のサンプル
写真=iStock.com/BlackJack3D
※写真はイメージです

しかしその翌日、白井さんは突然ハッとする。「泣いている場合じゃない。こうしている間にも夫の余命は削られていく……」

それから白井さんは、脳腫瘍の名医探しを始めた。ネットで見つけたアメリカの医師にも思い切ってメールを送った。だが、「予後が良い脳腫瘍しか手術をしない」「神経膠芽腫は難しいです」などと断られ続ける。

だが4日後。自宅から高速を使って2時間ほどの距離だが、ようやく夫を受け入れてくれる名医とその病院を見つけた。

まずは白井さん一人で、名医の診察室を訪れる。すると白井さんを見るなり、夫の病状の概要を伝えてあった名医は言った。「ご本人はどこですか?」。白井さんが、「自宅です。こちらに連れてくるのは難しくて……」。そう答えるか答えないかのうちに、「すぐに連れて来てください。一刻も早く入院させないといけません。いつ命を落としてもおかしくない状態です」と名医は言った。

白井さんはすぐに、自宅で夫や娘たちを見ていてくれている義母に連絡。タクシーを手配して自宅に向かわせ、夫を病院まで搬送。

「ビックリしました。こんなに大きな脳腫瘍は久しぶりです」

脳は頭蓋骨で覆われているため、腫瘍による圧の逃げ場がなく、命を司る脳幹という部分が圧迫されると死に至ることもある。現状、夫の脳幹はかなり圧迫されている状態のため、このままではいつ亡くなってもおかしくないと名医は言う。

「もし手術をしなければ、余命は4カ月。残念ですが、手術をしても、平均余命が14カ月と言われている、とても難しい病気です」

気が付くと、白井さんの頬を涙がつたっていった。

「わかってはいました。たくさん調べていましたから。覚悟もしていました。でも、祈っていました。奇跡が起こることを。名医なら何とかしてくれるんじゃないかって……。まだ夫は32歳。4歳と1歳の娘の、とっても優しい子煩悩なパパ。そんな人が、急に『死んでしまうかも』と言われても、当時の私には信じられませんでした」