そしてもう一つ、重要なのはサイズ選びです。シンプルなコーディネートでも、体にフィットしているものを着れば綺麗に見えますが、「サイズはちょっと合わないけど安いから」と洋服を買ってしまったりすると、後でよく見るとチグハグな感じがして後悔することになります。そんなときも、裾を詰めたり、肩をちゃんと合わせたりするだけで印象はずいぶんと変わるのではないでしょうか。

流行がある女性のファッションに対して、男性は逆に一点もの、一生付き合っていけるこだわりのアイテムをずっと使っていけるのが素敵だと思います。

江戸時代、江戸っ子たちは職業や家柄ごとに、小物や手ぬぐいの柄や素材でその人のポリシーや個性を出していたようです。このような自分のこだわりは、人に対して主張するものではないけれど、ただポリシーを持っているというだけで気持ちが引き締まったり、前向きになったり、自分のなかで変わる何かがあるのではないかなと思います。それってとても大事なことですよね。すべて高級なもので揃える必要はなく、自分がいいと思うカバンや時計を選んで持つという強い意思が一点でも見えると素敵だなと思います。

私の祖父は私が小学生の頃に学校でつくったバッジを、ループタイの留め具にして使ってくれています。「これは孫がつくったものを加工したんです」なんて、ストーリーが生まれるコーディネートですよね。倉庫から思い出の品を引っ張りだして加工し、もう一度身にまとってみると、新しい発見があるかもしれません。

私は、名前の杏にちなんでオレンジ色のものを身につける機会が多いです。着るものに自分だけのストーリーを持たせることは意味があるようで楽しいです。男性のものだと、干支や星座が描かれたネクタイもありますし、華美でなくても会話が生まれるようなファッションは心が弾むし、そういうことを考えながら買い物をするのも、また楽しいですよね。

(向井麻里=構成 的野弘路=撮影 松位初美=スタイリスト)