救命救急の医療現場が機能麻痺に陥る

浜辺さんは、多死時代を前にして、このままの勢いで高齢者の救急搬送が増えたら、救命現場が機能麻痺してしまう。何歳以上は救急車の出動を受け付けないとか、決まりをつくる必要があるんじゃないか、とすら言いそうでしたが、それでは年齢で生命の選別を行うトリアージになってしまいます。

東京都内では区内の救急病床が埋まっていれば、互いに融通し合う連携システムができあがっているそうですが、そのため各区をたらいまわしされて、病院に到着する時間が遅れる傾向があるとか。救命救急現場を機能麻痺させないためにも、利用者の側の自制が必要でしょう。

119番する前に、家族がまずすべきことは、訪問看護ステーションに連絡することです。

訪看ステーションは24時間対応を義務づけられていますから、状況を聞いてどうすればいいかを判断してくれます。必要なら主治医に連絡してくれたり、夜間の訪問もしてもらえます。ときどき耳にするのは、夜間に連絡した主治医が119番するように指示することもあるとか。もちろんそれが必要な場合もあるでしょうが、自分の出番を避けたいばかりに、安易に119番につなぐ原因を、医師が作っていることもあります。

実際にあった例では、訪問看護師が主治医に連絡したところ、どうしても連絡がつかず、代わって24時間対応をうたっている地域の別の在宅医に臨時の対応を要請し、夜間に往診したとのこと。後から主治医に「余計なことをしてくれた」と文句を言われたとか。いろんな医者がいるものですね。

緊急時の連絡先のメモを貼っておこう

訪看ステーションにつながらないことはまずありませんが、それがだめなら主治医に、それからケアマネに、そして訪問介護事業所の緊急対応窓口へ、順番に電話をかければOKです。もしご本人にその余力が残っていたら、自分で携帯電話で連絡すればよいだけです。らくらくホンで、ワンタッチダイヤルの1から順番に連絡先を入れておきましょう。

わたしと共著で『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』(上野千鶴子・小笠原文雄、朝日新聞出版、2013年)を書いた日本在宅ホスピス協会会長の小笠原医師は、患者さんのお宅の枕元に、緊急時の連絡先として以上の電話番号を優先順位をつけて大きな数字で記したメモを貼りだしておくとのこと。

もうひとつ、わたしが不思議でならないことがあります。

それは自分で電話をかけられる力のある高齢者が、緊急時に遠く離れて住んでいる子どもに電話することです。駆けつけるのに何時間もかかる距離にいる息子や娘に知らせるより、15分で来てもらえる訪問看護師や介護職の方が緊急時にはもっと役に立つと思うのですが。

電話をかけるシニア
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子どもたちだって医療や介護についてはしろうとです。にわかに判断はつきません。それに親が利用者になっている事業者の連絡先を知っているともかぎりません。途方に暮れるだけでしょう。そのうえ、昔なら夜中に連絡があっても、電車の始発まで動けない、ということもあったでしょうが、自動車で移動できる今日、その言い訳はききません。

親から緊急の電話があるたびに、4時間かけてクルマを走らせる孝行息子の話を聞いたことがありますが、なんでご近所のプロに頼まないのか、と釈然としません。