日本人の死因のほとんどは加齢による疾患

この在宅死の流れは、決して過去に戻る動きではありません。なにしろ「在宅」と言っても、そこにもはや家族はいないか、家族介護力をあてにすることができなくなっています。それに現在の「脱病院化」は、「病院化」が一周したあとの、新しい在宅死です。というのは、地域の医療・看護資源が、かつてなく充実してきたからです。

日本人の死因からわかることは、大量死時代の大半の死が、加齢に伴う疾患からくる死だということです。すなわち、予期できる死、緩慢な死です。幸い介護保険のおかげで、多くの高齢者がケアマネージャーにつながります。

介護保険の要介護認定率は高齢者全体では平均2割程度ですが、加齢と共に上昇し、80代後半では5割、90代では7割から8割に達します(国立社会保障・人口問題研究所、2012年)。つまり多くの高齢者は死ぬまでの間に要介護認定を受けるフレイル期間を経験しますので、たとえのぞんでも、ピンピンコロリなんてわけにはいかないのです。

要介護認定を受けた高齢者は、ケアマネがつくだけでなく、疾患があれば訪問医と訪問看護師につながります。在宅のままゆっくり下り坂を下って、ある日在宅で亡くなる……ためには、医療の介入は要りません。医療は治すためのもの、死ぬための医療はありません。医師の役目は、介入を控えること、そして死後に死亡診断書を書くことです。

救急車で運ばれてくる高齢者が増加

では、年寄りの容態が急変したり、死にかけの現場を発見したら、どうすればいいか、ですって? まちがっても119番しないことです。

都内の病院で救命救急医療に30年以上携っている浜辺祐一医師と対談したことがあります。救急現場という人生が一瞬のうちに凝縮したような現場に身を置いて、そのエピソードを洒脱なエッセイで綴ったシリーズが人気の、腕も立つし筆も立つドクターです。

交通事故などで一刻を争う瀕死の患者を、切ったり貼ったりして救命する現場で、自分のやっていることがたったいま求められる価値ある行為であることに、強烈な使命感を感じるとのこと。その快感が、彼を現場につなぎとめてきました。ドーパミンとアドレナリンが大放出するこんな緊張感あふれる現場に、アディクトする(病みつきになる)気分もわからないではありません。

救命救急現場の近年の急激な変化は、救急車で運ばれてくる高齢者が増えたこと。たせて数日から数週間の延命を施しながら、これが絶対に求められているという確信を持つことが難しくなり、へたに延命治療を施したばっかりに、あとから家族に恨まれることもあるとか。

気管切開され、人工呼吸器が取り付けられた患者
写真=iStock.com/PongMoji
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そんなら最初から119番しなきゃいいんですが、気も動転した家族がつい119番してしまうんだそうです。それというのも、これまで119番する以外の選択肢を、家族が知らなかったからでしょう。