テスラは顧客を使って、レベル5に必要なデータを集めている

特にテスラのEVは、CPUが心臓部のコンピュータ・セントリック(中心)な設計になっている。スマホと同じだと考えていい。クルマの制御はコンピュータが集中的に管制し、衛星やスマホのネットワークを通じてテスラとデータをやり取りする。EVのソフトウエアは、データ通信でアップデートされ、不具合が生じた場合もプログラムによって遠隔で直してしまう。物理的なダメージ以外は修理工場に持ち込んで修理する必要はないのでリコールが少ない、という点が画期的だ。

逆に、EV本体からはサーバーにリアルな走行データが送られている。運転する人は、テスラに雇われたテストパイロットみたいなもので、意識しなくても日々データを提供しているのだ。テスラは顧客を使って、レベル5に必要なデータを集めているわけだ。

テスラはアメリカに3つの工場があり、中国の上海郊外に年間50万台規模を製造できるギガファクトリーがある。ドイツのベルリン近郊にも、EU市場の拠点となるギガファクトリーを建設中だ。EVの販売台数が伸びるにつれて、顧客から送られるデータ量は爆発的に増える。

ウェイモは、グーグルのストリートビューを撮影する360度カメラカーで、自動運転のデータを集めていた。カメラカーは無人ではないが、交通事故をきっかけに自動運転で走らせていたことがわかった。世界中を走るカメラカーは、合計で地球400周以上の距離を走行している。ウェイモは自動運転タクシーも走らせているから、蓄積したデータ量は膨大だ。

GM傘下のクルーズも、自動運転研究に強いミシガン大学の実験シティ「Mcity」や自動運転で先端をいくカリフォルニア州の公道で試験走行をつづけてきた。

アメリカ勢3社に比べれば、ヨーロッパ勢のデータ収集量は圧倒的に少ない。共通国家戦略の下でEV化がうまくいっても、MaaSの準備ができていなければ、惨敗する可能性が高い。

中国の自動車メーカーは、今後しゃかりきになって走行データを集めるだろう。どんな事故が起ころうと、国を挙げて取り組むはずだ。政府から「先頭に立ってやれ」とデータ収集係を命じられたのは、百度(バイドゥ)だ。

日本勢では、トヨタが海外で走行実験を進め、元ウェイモの人材を採用するなど自動運転に投資してきた。静岡県裾野市の実験都市「ウーブン・シティ」の建設も進んでいる。東京ドーム約15個分の土地に2000人が住み、自動運転の試験走行などが計画されている。

しかしテスラやグーグルが公道で集めてきたデータ量に遠く及ばないことは間違いない。今のままでは、日本勢とヨーロッパ勢がデータ量で追いつく方法は見当たらない。もし日本勢が勝つとすれば、データベースに基づかない自動運転システムを開発したときだろう。おそらく、センサー技術が強い日本のメーカーにしかできない領域だ。