電車の乗り換えは検索サイトを使えばすぐ調べられる。それなのに雑誌形式の「時刻表」が販売されており、代表格の大判時刻表は2種類あわせて毎月9万部が発行されている。どんな人が、なんのために買っているのか。鉄道ライターの杉山淳一さんは「もちろん鉄道ファンも検索サイトを使って旅の予定を立てる。しかし、紙の時刻表にしかできないこともたくさんある」という――。

インターネットに「便利」を奪われた時刻表

ヒット商品には2つの要素がある。「便利」あるいは「楽しい」だ。本で言えば『会社四季報』『ポケット六法』「住宅地図」は「便利」カテゴリー。『少年ジャンプ』など漫画雑誌は「楽しい」カテゴリー。「楽しくて便利」な商品が最強だけど、本の世界では「便利」な商品が廃れつつある。「便利」は「もっと便利」な手段に交代していくからだ。

鉄道も同じ。船や馬車より便利だから発達した。そしてもっと便利なマイカーやバスに客を奪われてきた。

月刊時刻表はかつて「便利」カテゴリーの筆頭だった。全国の鉄道を網羅し、運賃の算出方法、航空ダイヤや旅館リストも載っている。しかしご存じの通り「もっと便利」が現れた。インターネットの乗り換え検索サイトだ。

その機能が増し、精度が高くなるにつれて時刻表の部数は減っていった。乗り換え検索や地図アプリのルート検索は地方のバス会社も対応しはじめており、月刊時刻表に載せきれないニッチな情報も入手できる。こうなると月刊時刻表のほうが不便になってくる。

不便になっても毎月9万部売れ続ける理由

それでも、老舗『JTB時刻表』(JTBパブリッシング)の発行部数は媒体資料によると平均4万部。ライバルの『JR時刻表』(交通新聞社)は5万部。どちらも全国ダイヤ改正号は増刷している。

こうして月刊時刻表が刊行され続ける理由は「楽しい」と思って買ってくれる読者がいるからだ。もちろん業務で「便利」に使う人もいるだろうけれど、現在の月刊時刻表は「旅行趣味誌」といえる。