また、苛烈な指導を向けられるのが自分ではなくても、つらさを感じるときがある。最もつらかったこととして、「他人がやられてるのを見たとき」と答えてくれた人も複数いた。

「上対番が自分のミスで腕立てをさせられるが、腕立てができない人だったので見ているのがつらかった」
「同期の女子が恋愛沙汰で問題を起こしてやめた。いろいろ言われて『女子でこういうことをやっちゃったからもういられない』って。でも男子はおとがめなしだった。それを見て、なんなんだこれはと思った」
「同期がテンキー(ロッカー)の中にゲーム機を隠していたのがばれて、反省ミーティング。みんな腕立て伏せをして、何が悪かったか一つずつ言っていく。その後は空気椅子で今度は改善点を一つずつ言うまで終わらない。そんなに数があるわけもないのに。同期は10キロくらいの重しが入ったテンキーを載せられてもうボロボロ。それを見るのはキツかった」

帰省の理由は「希死念慮」

防大では、本当に残念なことだが命を自ら断つ者もいる。

数字的には一年に一人出るか出ないかといったところだが、仲間の死は、遺された者にも大きな影響を及ぼす。毎日顔を合わせ、共に乗り越えていこうとする仲間が死を選ぶわけだから、影響を及ぼすのは当然のことだろう。

「同期の子が自殺したのはきつかった。逃げたらいいのにって思うけど、そうさせてくれない環境と圧力が結果として死という逃げ道しかないと思わせてしまうのは正直いただけない」
「ちょっとのミスから追い討ちをかけられて、その人が頑張って取り返そうとしても『一挙手一投足そいつがすることは詰めていこう、それが方針だ』という風潮になって、疑問だった。そして同期は亡くなってしまった。同期とも『絶対こんなの普通の世の中じゃおかしいよ』と話してた」

また、自殺とまではいかないまでも、密かに自傷行為を繰り返す者もいる。取材の中でも、「リストカットをしてた。部屋がつらかったというのが大きくて。冬だったので長袖だったから誰にもバレなかった」と話してくれた者もいた。

ほかにも防大では怪我や病気で日常生活を送れない場合、部屋の前にその者の氏名と理由を貼り出す決まりがある。一番多いのは風邪だが、忌引きや入院などでも使用される。

「ある日、同期の部屋の前を通ったら、その紙が貼られてて。親元に帰る《帰休》で、その理由が《希死念慮のため》となっていた。その子が『帰らせてくれ』と訴えるまでにはどんなにつらかったんだろうと思うし、要するに『自殺の懸念あり』とわざわざ貼り出すその無神経さが信じられなかった」と振り返る者もいた。