サービス残業で成り立つ苛烈な弱肉強食の世界
特にテレワークが続く今、長時間労働の実態が見えづらくなっている。個人として査定される際は稼働率の高さが重要になってくるが、プロジェクト単位で考えると稼働率が高くなるほど、顧客の支払いが増えることになる。そのため、追加稼働(残業)が必要になった場合、顧客や上司の心証を良くしたいとサービス残業で済ませてしまう社員も少なくないのだという。
「残業代を請求することはもちろんできますが、残業が多いと仕事ができないやつということになり、人事考課が悪くなったり、PMから次のプロジェクトに呼んでもらえなくなることを恐れているんです。若手の中には厳しい競争社会の中で鍛えられると錯覚する人もいますが、心身をすり減らし、最新技術についていくことは容易なことではありません」
由紀恵さん自身、今回、次のプロジェクトがなかなか決まらなかったことについて技術面の問題をあげる。研修等で補っているものの、エンジニアに求められる技術は日々変化しており、新しい技術で育ってきた若手社員のほうが有利な場面も少なくない。しかしそれもいずれ古くなり、新たなライバルが出現する。まさに苛烈な弱肉強食の世界だ。
テレワークの社員を適正に評価するためには
この企業で40年以上働き、現在は嘱託職員となっている正志さん(63歳)は組合活動にも携わり、社員からのさまざまな相談に応じてきた。アサイン制が導入されて以来、社内がギスギスした雰囲気になり、離職率が上がり、メンタル疾患を抱える社員が増加していると正志さんは言う。特にテレワークと成果主義がセットになることの危うさを指摘する。
「実態が見えづらいテレワークで、成果を期待され、隠れて過重労働をしてしまう人も少なくありません。その結果、心身ともに追い詰められる社員が増えているのではないでしょうか。しかし出社して顔を合わせる機会もないため、互いの不調にすら気づかない」
労働時間での評価が見えづらくなったことを理由にジョブ型へ移行する企業が増え始めている。富士通や日立は2020年、一部従業員に対し、ジョブ型を導入し始めたことで話題になった。
ジョブ型とは事前に職務内容を明確に定める雇用制度で、これまで曖昧だった仕事の範囲が明らかになり、働きやすくなるという側面もある。特に出勤せず、自宅などで個別に働くテレワークにおいては、職務を明確に定める必要性もあるだろう。
こうした観点からも労働時間ではなく、定められた職務に対して評価を行うジョブ型雇用はテレワークと非常に相性がいいということができる。