長時間労働へと駆り立てる「稼働率」評価制度
その背景にはこの企業が導入している裁量労働制とジョブ型評価制がある。エンジニアをはじめとする技術職が裁量労働制とジョブ型評価制にシフトしたのは今から10年ほど前のことだ。裁量労働制においては、由紀恵さんなどのエンジニアにとって、業務の「稼働率」が重要な評価基準となる。稼働率が低い状態が続けば、リストラの対象になってしまう。
「稼働とは有料の仕事をした時に換算されます。たとえば、お客様のためにドキュメント(書類)を作成することは“稼働”ですが、研修を受ける、有給を取ることは“非稼働”となります。全労働時間に対して稼働がどれだけあったかによって稼働率が計算され、稼働率が低い社員は売上に貢献していないとみなされ、査定の時、低い評価になってしまうのです」
由紀恵さんの昨年の稼働率は94%。高い稼働率のように思われるが、ごく平均的な数値だという。稼働率が低ければ有給を取ることはできず、残業してでも稼働率を上げなければならなくなる。
この企業ではエンジニアに対してみずから公募してプロジェクトに入る、アサイン制をしいており、プロジェクトごとにメンバーが入れ替わる。
「一つのプロジェクトが終わると社内の募集サイトにログインして次の案件を探すことになります。就活生のようにこれまでの経歴をまとめたエントリーシートを送り、面談を受け、採用されなければならないのです」
次の仕事が決まらず社内で1カ月間“就活”
2020年秋、由紀恵さんが関わっていたプロジェクトが終了した。早めに次を決め、待機期間に研修を受け、休暇を取るつもりでいたのだという。
「2週間ほどあれば次が決まると思っていたのですが、まったく決まらず、1カ月近く“就活”することになりました。10カ所くらいに応募したのではないでしょうか。この“ベンチアサイン期間”は稼働にならないので、長引くほど査定に響いてきます。だんだん焦ってきて、希望しない仕事や条件の良くない仕事に応募せざるを得なくなっていくのです」
一つの仕事が終わると必死になって次の仕事を探さなければならない――街中で次の配達を待つウーバーイーツのドライバーの姿と重なってしまうのは私だけだろうか。
“ベンチアサイン”を恐れるあまり固定化したメンバーで閉鎖的なグループをつくり、プロジェクトをまわそうとする人たちもいるという。
「採用の決定権があるPM(プロジェクト・マネジャー)が力を持っていますから、少しでも優秀と思われたいと隠れて長時間労働するなど無謀な働き方をして、心身を壊してしまう人もいます」