成果主義のもと横行するジョブ型リストラ
一方でジョブ型が成果主義の温床になりやすいことは、由紀恵さんが勤める大手外資系IT企業A社の例からも明らかだ。
ジョブ型という言葉を最初に用いたのは濱口桂一郎氏(労働政策研究・研修機構)である。ジョブ型では採用時に職務内容、勤務地、勤務時間など仕事の条件があらかじめ決定され、文書(ジョブ・ディスクリプション)化される。それはあくまでも「仕事の範囲」を示すものであって「評価基準」を示すものではない。しかし、現在多くの日本企業においてジョブ型制度は、職務を明確に定義した上で労働時間ではなく、仕事の成果で評価する成果主義として浸透しつつあるようだ。
A社が採用するジョブ型制度でもあらかじめ職務内容を定めたジョブ・ディスクリプションをもとに成果を測った上で査定を行い、賃金やボーナスを決定する方法を取っている。
「ジョブ型を逆手に取り、『あなたのジョブはなくなりました』と退職勧奨やリストラを受けるケースが多数出ています。会社の都合で職務を改廃する際に必要となる配置転換や教育訓練などについても『あなたの能力が足りなかったせいだ』と自己責任のように扱われてしまうことがあるのです」(正志さん)
由紀恵さんも体調不良による長期休暇を取得し、稼働率が下がった際、上司からジョブ・ディスクリプションを提示され、「能力が足らない」「今後のキャリアをどう考えるのか」とジョブ型リストラを断行されそうになったことがあったという。
会社側にはメリットばかりだが社員側にはリスクも
職務内容が明確で専門性が重視されるジョブ型は、キャリアを追求したい個人にとって魅力的な制度のように思われる。一方で仕事が個人に固定化されるため、その職務が必要なくなった場合、リストラの対象となりやすく、行き過ぎた成果主義による査定が行われるリスクもあるのだということを覚えておく必要があるだろう。
そしてジョブ型がさらに普及すれば、会社は正社員を採用せず、ジョブ単位での雇用契約、あるいは業務委託契約を個人と結ぶようになることも十分考えられる。個人事業主化すれば、企業側は社会保険料を削減でき、労務管理上の責任から逃れることが可能となる。
実際、A社ではジョブ型制度に移行した際、エンジニアを含む技術系正社員等多くの職種を契約社員あるいは個人事業主に置き換える計画があった。組合等が強く反対したため、ジョブ型への移行のみで終わったが、事務部門などはすべて外部委託先が請け負うことになったのだという。