具体的な根拠の積み上げがない「いわくつき」の数字
「河野太郎氏のああいう言動は日常茶飯事だ」。9月1日、週刊文春は河野氏と資源エネルギー庁幹部とのやりとりを「パワハラ」として、音声データを公開した。問題のシーンは3年に一度見直され、10月に閣議決定を控える「エネルギー基本計画」を巡るやりとりだ。
エネ庁から出席していたのは山下隆一次長、小澤典明統括調整官だ。経産省・エネ庁が8月に出した素案では、2030年に総発電量のうち、再生可能エネルギーの比率を「36~38%程度」にするとしたものだ。
この数値は4月に米バイデン大統領主催の気候変動に関する首脳会議(サミット)に出席した菅首相が「野心的な目標として30年度に46%削減を目指す」と各国首脳に向けて述べたのを逆算して作ったものだ。欧米諸国に足並みをそろえるために19年度実績(約18%)の2倍にあたる高いもので、具体的な根拠の積み上げがない「いわくつき」の数字だ。
原発の再稼働がままならず、肝心の再エネも太陽光パネルを設置する場所も枯渇。風力発電も大きく引き上げられるめどが立たない中で、「無理筋な目標」として産業界は一様に不安を抱いて10月の閣議決定への成り行きを注視している。
「再生可能エネルギーの比率」で、なぜそこまで興奮したのか
この「無理筋な目標」に対し、河野氏は「『36~38%以上』と明記しろ」と執拗に迫ったという。エネ庁の小澤氏は「『以上』という文言を入れれば、産業界に『最低でも38%は達成するだろう』と誤ったメッセージを与え、企業の設備投資などにも大きな影響を及ぼしてしまう」と理解を求めたが、河野氏は「積み上げて36~38になるんだったら、以上は36~38を含むじゃないか! 日本語わかるやつ出せよ、じゃあ!」と激しい言葉を浴びせ続けた。そして、エネ庁幹部の言葉を遮るように、「はい、次」「はい、ダメ」と連発され、その“ダメ出し”の回数は13回にも及んだ、生々しい状況が音声データで公開されている。
自民党の「異端児」と呼ばれる河野氏の看板施策の一つに「原発ゼロ」がある。河野氏は東京電力福島第一原発の事故後に超党派の議員連盟「原発ゼロの会」を立ち上げた張本人でもある。
しかし、総裁選をめぐる各候補者との討論会やテレビのインタビューではこの「原発ゼロ」を封印。「耐用年数の切れた原発は順次フェードアウトする。中長期的には原発は減っていく」と発言をトーンダウンするなど、いつもの切れ味はない。「総裁選での地方の党員投票や自民党内の原発維持・推進派を刺激したくないとの判断がある」(自民党中堅幹部)からだ。
再生可能エネルギーの比率をめぐって「パワハラ」ともいえる発言が出たのは、自らの政治信条の一つである「原発ゼロ」に向けて、その道筋を明確にしたいという思いがにじんだからだろう。