テロ研究者が考える注視すべきポイント

今回のアフガニスタンの政変についてはさまざまな観点からの議論がすでに始まっているが、筆者の専門であるテロ対策の視点から考えた場合、以下四つが大きなポイントになろう。

■アメリカの対テロ実力行使は「無人機攻撃」に完全移行

米軍の完全撤退によって9.11以来の「対テロ戦争」は終結したとはいえ、それはテロの脅威がなくなったことを意味しない。バイデン大統領も、戦争は終わったがテロとの戦いは続くとの認識を示している。

タリバン政権下のアフガニスタンでは今後、現地のテロ組織の情報がこれまでのように入手できなくなるとの懸念も広がっているが、アメリカはアルカイダやイスラム国(IS)系組織の動向を引き続き注視していくことになるだろう。そして、ソマリアやイエメンなどで実施してきたように、アフガニスタンでも遠隔操作の無人爆撃機によるピンポイント攻撃「オーバー・ザ・ホライズン(over the horizon)」戦略に完全に移行することだろう。

米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は9月1日、タリバンとテロ対策をめぐり協力可能との見方を示したが(「タリバンと対テロ協力「可能」 米軍制服組トップ」日本経済新聞、2021年9月2日)、おそらくイスラム国ホラサン州へのピンポイント攻撃が想定にあるのだろう。

言い換えると、バイデン大統領の対テロ戦争終結宣言は、米軍の足跡を残す政策を終結させたものの、足跡を残さない対テロは続けることを意味している。

■中国・ロシアはどう動くのか

今回のスピード政変劇でアメリカ以上に強い懸念を抱いたのは中国でありロシアかもしれない。両国はタリバンとの関係構築に欧米より積極的な態度を見せているが、それには大きな理由がある。

アフガニスタン国内ではアルカイダやIS系組織だけでなく、ウイグル系武装勢力である東トルキスタン・イスラム党(ETIM)、カフカス系や中央アジア系のイスラム過激派の戦闘員が活動している。アフガニスタンがかつてのような内戦状態に陥り、こうした戦闘員たちの活動が活発化して自国の治安を脅かす可能性を、中国やロシアは懸念している。米中の対立はこのところ深まっているが、テロ問題に関しては米中、そしてロシアが協力できる分野でもある。