「まるで仏様みたいに安らかな顔でしたよ」
「ずっと看護をしていると、死が近いかもしれない……という兆候を感じるんです。血圧が下がる、尿量が減るなどといった経過とあわせてサインをつかみとったら、家族の反応をみて心が乱れないように配慮しながらお話をしていきます」
亡くなる前日、厚子さんは途中まで一言、二言の会話ができたが、やがて目をかっと見開いて苦しそうな様子に変わっていったという。
「寝ていても目が開いていて……薄目ではなくギョロ目で目が合うんです。でももう意識がないようでした」(徹治さん)
日付が変わって午前0時半頃。顎で呼吸する下顎呼吸が始まった。厚子さんの隣で寝ていた徹治さんは、ひとつ屋根の下に眠る父親の嘉規さん、兄夫婦を起こしにいく。4人が見守るなか、それから30分程度で厚子さんは眠るように息を引き取った。「人間死ぬ時は穏やかな顔になるんだ」と、嘉規さんは思ったという。
「まるで仏様みたいに安らかな顔でしたよ」(続く。第2回は9月23日11時公開予定)