以上がこれまでの経緯である。安倍支配を容認するのか、否定するのか、実は河野氏は明確な姿勢を示していない。それを曖昧にしたまま「イメージ先行」で逃げ切れるのか。長老支配や派閥政治を打破する河野氏への期待がしぼめば、最初の投票で過半数を獲得するのは困難となり、石破氏が決選投票で安倍氏に逆転された2012年総裁選の構図が再現される可能性が高まる。
むしろ小泉氏が「抵抗勢力」との対決姿勢を前面に打ち出して地滑り的に勝利した2001年総裁選に習って安倍氏との対決姿勢を明確に掲げたほうが、党員投票で圧勝的な支持を得て一気に過半数を制することができるのではないか。「石破型」で逆転負けか、「小泉型」で圧勝か。河野氏は重大な岐路に立っている。小泉型を目指すなら、安倍氏と決別する覚悟が不可欠だ。
切れ味を鈍らせる安倍氏への接近
小泉型の特徴は、最大派閥が受け入れ難い公約を高らかに掲げたことだった。小泉氏の長年の持論である郵政民営化である。当時の派閥政治を牛耳っていたのは郵政族の重鎮・野中広務元幹事長だった。小泉氏は野中氏を「抵抗勢力のドン」と位置付け、全面対決を挑んだ。ここから「小泉劇場」が幕を開ける。
現代に置き換えると、安倍氏が受け入れ難い河野氏の持論は「脱原発」である。安倍最側近として官邸で菅官房長官以上に権勢を振るった今井尚哉元首相補佐官は経産省出身で強烈な原発推進論者だ。今回の総裁選では岸田陣営に出入りし「安倍氏の本命は岸田氏」とささやかれる根拠となった。
河野氏は安倍氏に遠慮して原発再稼働を容認する姿勢を見せたが、小泉型を目指すのなら「脱原発」に立ち戻り、再生エネルギーへの大胆な変革を最大の争点に掲げ、原発推進派を「抵抗勢力」に仕立てる真っ向対決を挑むべきだろう。
河野氏に残された唯一の“勝ちパターン”
小泉氏は経済政策の転換を実行するため、抵抗勢力と全面対決する強力な布陣をしいた。まずは毒舌で国民的人気の高かった田中角栄氏の娘・田中真紀子氏を応援団に引き入れ、外相に抜擢。この人事は内閣支持率を大きく上昇させた。
そのうえで長年の盟友である山崎派会長の山崎拓氏を幹事長に、清和会を旗揚げした福田赳夫元首相の長男・福田康夫氏を官房長官に起用して脇を固めた。さらに前任の首相で清和会会長の森喜朗氏との関係を維持し、野中氏ら抵抗勢力に政敵を絞り込んだ。
現代の河野氏に置き換えると、世論喚起の起爆剤である田中真紀子役になりうるのは小泉進次郎環境相であろう。党運営の要である山崎拓役は石破氏をおいて他にない。河野氏は石破氏と盟友関係ではないが、安倍氏に最も干された石破氏の幹事長起用は「安倍支配からの脱却」のシンボルとなる。