岸田氏は伝統的に「富の再分配」を重視してきた宏池会の会長だ。しかし現在の宏池会はかつての威光を失い、清和会に屈している。しかも岸田氏は安倍氏に極めて従順だ。岸田政権なら安倍路線が継続されるのは間違いない。安倍氏のキングメーカーの座も安泰だ。
そこへ参戦したのが、各種世論調査で「新総裁にふさわしい人」のトップに立つ河野氏だった。「安倍支配からの脱却」を鮮明に打ち出している石破茂元幹事長は出馬を見送り、河野氏支持を表明。「安倍氏が支援する岸田・高市陣営」vs「安倍氏が警戒する河野・石破陣営」という対決構図が見えてきた。
決選投票になれば“河野優位”はあやうい
ここで今回の総裁選のルールをおさらいしよう。国会議員票383票(1人1票)と党員票383票(約113万人の党員票を比例配分)の計766票のうち過半数を取れば勝ちだ。誰も過半数に届かなければ上位2人による決選投票となる。国会議員票383票と各1票ずつの都道府県連票47票の計430票で争う形式だ。決選投票にもつれ込めば「派閥の力」がモノを言う。
朝日新聞が9月11、12日に実施した世論調査によると、自民党支持層が新総裁にふさわしいと考えるのは①河野氏 42% ②岸田氏 19% ③石破氏 13% ④高市氏 12%の順だった。河野氏は党員投票でトップに立つ可能性が高い。
一方、最大派閥の細田派と第二派閥の麻生派には河野氏への抵抗感が強く、河野氏は国会議員票で圧勝するのは難しそうだ。最初の投票で過半数に届かなければ、決選投票で2・3位連合に逆転される可能性が十分にある。
安倍氏も河野氏と岸田氏の一騎打ちなら河野氏に軍配が上がると考えた。そこで国家観や歴史観などの右派的な政治信条が極めて近い高市氏を擁立し、左右両方から党員票を取り込んで分散させ、決選投票に持ち込む戦略を描いた。
河野氏も当初は安倍氏を敵に回して勝つのは難しいと考えたのだろう。
正式な出馬表明に先立って安倍氏を訪ねて出馬の意向を伝え、安倍氏が警戒する「脱原発」や「女系天皇賛成」の持論を封印して歩み寄る姿勢を見せた。さらに安倍氏が最も恐れる「森友学園事件の再調査」も「必要ない」と明言し、安倍氏の支持を獲得する意欲を示したのだ。
「石破型」で逆転負けか、「小泉型」で圧勝か
それでも安倍氏が河野支持に転じることはなかった。主要派閥が河野氏に雪崩を打つ展開にはならなかったのである。
これを受けて河野氏は安倍氏の天敵である石破氏を訪ねて支援を要請した。この結果、細田派や麻生派で一挙に河野警戒論が高まった。候補者をさらに増やして党員投票を分散させることを狙って、推薦人確保に苦労していた野田聖子幹事長代行に推薦人を貸す動きまで出始めたのである。