世界で85件実施されたが、生まれた子供への影響は不明

ハイリスクの子宮移植は世界でどのくらい実施されているのだろうか。

世界初の子宮移植は2000年にサウジアラビアで行われた。その後、2021年3月時点までにアメリカやスウェーデンなどでも実施され、計85件行われている。だが、生まれた子供は40人と実施件数の半分以下である。しかも子供の将来への影響は不明だ。

子宮を摘出する手術自体は、平均で8時間以上もかかる。子宮を傷つけないように行うからだ。免疫抑制剤の使用も子供への影響が懸念され、慎重な投与が求められる。費用も移植から出産まで2000万円以上がかかり、経済的な負担はかなり大きい。

なかでも沙鴎一歩が問題だと考えるのは、脳死体からの脳死移植ではなく、健康なドナーから子宮を取り出す生体移植となる点だ。子宮を摘出することでドナーとなる母親や姉妹の体を傷付けなければならないし、前述したように子宮移植を受ける女性患者も移植、帝王切開、その後の子宮摘出と何度も手術を行う必要がある。一般的に「手術は必要悪」と言われるだけに、術後の十分なケアが欠かせない。

臨床研究の条件のひとつとしてドナーが自発的に無償での子宮の提供に同意していることが必須とされているなかで、専門医によるドナーやレシピエントに対する精神的なカウンセリングも必要だ。

対象となるロキタンスキー症候群は女性の「4500人に1人」、つまり「0.02%」といわれている。

河野太郎氏は父親に肝臓の一部を提供している

臓器移植は臓器を提供するドナーと、その臓器を必要とする患者(レシピエント)を中心に医療関係者ら多くの人々が参加する、社会性の強い医療である。それゆえ子宮移植についても、社会的合意を得るための議論が必要だろう。

たとえば、総裁選で話題を集めている河野太郎・行政規制改革相が、こうした議論の発起人になれば、世論の関心も高まるのではないだろうか。

2002年8月7日、自民党脳死・生命倫理及び臓器移植調査会の宮崎秀樹会長に臓器移植問題で申し入れに訪れた河野洋平元外相(左)と同氏の長男の河野太郎議員。同元外相は、重症の肝硬変のため、太郎氏から肝臓の一部を提供されて生体肝移植手術を受けた
写真=時事通信フォト
2002年8月7日、自民党脳死・生命倫理及び臓器移植調査会へ申し入れに訪れた河野洋平元外相(左)と同氏の長男の河野太郎議員。同元外相は、重症の肝硬変のため、太郎氏から肝臓の一部を提供されて生体肝移植手術を受けた。

河野太郎氏は、父親の河野洋平・元衆院議長に生体移植のドナーとして肝臓の一部を提供している。河野太郎氏は自らのドナー経験から健康体を傷つける生体移植に疑問を持ち、脳死移植を増やす臓器移植法の改正案の土台を作り上げた移植医療の立役者でもある。