「脳死移植のルールを定める臓器移植法の対象外」と毎日社説
8月2日付の毎日新聞の社説は「子宮移植の容認 倫理・医療面で問題多い」との見出しを掲げ、「まず生命維持に必須ではない臓器移植が認められるのかという点だ。移植のための臓器提供は、他に命を救う方法がない場合に限られる。子宮は目的が異なり、脳死移植のルールを定める臓器移植法の対象ではない」と訴える。
子宮移植のような生命維持と無関係な移植が野放図に広まることは認めがたい。人間の欲望は際限なく、最後には永遠の生命力まで欲するからだ。子宮移植は社会的倫理的な議論の積み重ねを欠いている。
毎日社説は指摘する。
「子宮の提供は、健康な人の体にメスを入れる必要があり、大量の出血を伴う。移植される女性も手術、出産時の帝王切開など、負担は大きい。子宮を定着させるため強い免疫抑制剤を使う場合の胎児への影響は分かっていない」
健康体を傷つけるような行為は医療と言えるだろうか。片方の腎臓や肝臓の一部の提供を受け、患者に植え付ける生体移植はあくまでも緊急避難の措置であり、通常では認めがたい。子宮移植は子宮の提供者(ドナー)も子宮の移植を受ける患者(レシピエント)も手術の負担が大きい。こうした問題を踏まえたうえで、子宮移植の論議を進めてほしい。
「当事者の女性たちへのケアを充実させる必要がある」
毎日社説は「本来、出産するかどうかにかかわらず、豊かな人生を送れる社会が望まれる。その観点から、当事者の女性たちへのケアを充実させる必要がある」とも指摘し、最後にこう主張する。
「多くの問題を抱える中、拙速な実施は避けるべきだ。生命倫理に深く関わる問題について、国民の理解が醸成されているとは言いがたい。移植医療のあるべき姿から議論しなければならない」
毎日社説の主張する「移植医療のあるべき姿」がどんなものかはよく分からないが、厚労省の審議会や国会、医学会、そして私たち国民に身近なシンポジウムや講演会の場で議論を深めていきたいものである。