無痛分娩を希望する妊婦にはどんな理由があるのか。丸の内の森レディースクリニック院長の宋美玄さんは「『痛いのは嫌だ』という声が多い。痛みを取れるなら取りたい気持ちはよくわかるが、メリットとデメリットを十分に理解して病院選びをしてほしい」という。無痛分娩経験者でライターの髙崎順子さんが聞いた――。
背中の痛みに苦しんでいます
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「麻酔を使える」ことを条件にした病院選択

【髙崎】日本では無痛分娩の実施率が6.1%(2016年。日本産婦人科医会)と、アメリカ(分娩の7割)やフランス(経膣分娩の8割)に比べて普及していません。宋先生は東京駅前「丸の内の森レディースクリニック」の院長として産婦人科診療を行っていますが、日常的に接する妊婦さん方には、無痛分娩に関してどのような傾向が見られますか?

【宋美玄先生(以下、宋)】私のクリニックでは妊娠32週までの妊婦健診を行い、分娩は都内の提携病院や里帰り先でしていただく「セミオープンシステム」を取っています。その大半の方が麻酔分娩を希望され、感覚的には8〜9割はいる印象です。

当院は順天堂大学病院や愛育病院など、麻酔分娩で有名な施設とも提携しており、それらの施設を「麻酔分娩ができるところだから」と選ぶ方も多いです。

麻酔を併用して産みたい、と願う妊婦さんはまず、「無痛分娩ができるところ」をリストアップし、そこから候補を絞っていくやり方をされます。当院は東京の中心にあるので、分娩施設の選択肢が多いことも関係しているでしょう。産院が選べるほど多くない地域では、この点は事情が異なっていると思います。

妊婦さんの中には、最初から麻酔分娩を選ばない方もいます。その理由は「痛みが怖くない」「過去のお産で痛みを耐えられた」「費用面」などです。

私自身は、出産のさまざまな現場を知っているので、分娩施設はまず「医療体制の整った安全性の高い病院」を選び、そこで麻酔分娩ができるならする、との考えを持っています。

(※)編注:「無痛分娩は麻酔を使用した分娩であり、完全に痛みがないわけではい」という宋先生の認識を尊重し、先生のコメント内は「麻酔分娩」と表記しています。その他の部分については、一般的な呼び方として「無痛分娩」を採用しています。

「痛みを取れるなら取りたい」気持ちはよくわかる

【髙崎】先生のおっしゃる「医療体制の整った安全性の高い病院」とは、具体的には、どのような施設なのでしょう?

【宋】あくまで私の個人的な条件で、地域によっては難しいところもある、との前提でお話しします。

まず、産科・麻酔科・新生児科の医師が24時間常駐していること。加えて、お産は出血多量で母体が危険な状態になる事態が起こりえるので、輸血用の血液バッグを備えていること。血液バッグの備蓄について患者側が知るのは難しいですが、心臓外科がある病院や、救命救急センターが設けられている3次救急病院などなら、備えがあるだろうと考えられます。

私は自分の子を2人とも、高齢出産で産んでいます。そのリスクを考え、「お産で死にたくない」との思いを最優先に、病院を選びました。1人目は麻酔分娩の可能な病院で、あまりの痛さからお産の途中で麻酔を希望したのですが、分娩の進行が早くて間に合いませんでした。2人目は麻酔分娩に対応していない病院だったので、結局、2人とも麻酔なしで産んでいます。

インタビューはオンラインで行った
インタビューはオンラインで行った(撮影=プレジデントオンライン編集部)

自分がお産で非常に痛い経験をしたので、「痛みを取れるなら取りたい」という妊婦さんの気持ちは、とてもよく分かります。初産の方に病院選びについて訊かれる際には「痛み自体には意味はない」と話し、その上で、麻酔分娩ができる病院は限られることと、麻酔分娩のメリットとデメリットについてお伝えするようにしています。

麻酔分娩の病院選びで大切な点は、24時間体制で麻酔に対応している施設と、麻酔科医の勤務時間が限られていて計画分娩をしなくてはならない施設は違う、ということです。「安産」の観点からこの違いを考えて、その上で妊婦さん本人が何を優先するかを決めてほしい、と話しています。