『週刊文春』のスクープは、ニュースサイト「文春オンライン」で真っ先に報じられる。「文春砲」が読めるとあって、文春オンラインは日本最大級のニュースサイトに成長した。その過程は波瀾万丈だった。元『週刊文春』編集長で、現『文藝春秋』編集長の新谷学さんに聞いた――。(聞き手・構成=ノンフィクションライター・中村計)(後編/全2回)
インタビューに応じる前『週刊文春』編集局長、『文藝春秋』編集長の新谷学さん
撮影=門間新弥
インタビューに応じる前『週刊文春』編集局長、『文藝春秋』編集長の新谷学さん

「デジタルは苦手」だからこそ見えるものがある

——出版不況の中、よく「もう、おもしろいだけで売れる時代ではない」という言葉を聞きました。伝える手段が時代から遅れただけで、本来、そんなことはないのに、ここ数年、出版界の遊び心というか、下世話なことでもおもしろがる精神がやせ細ってしまった気がします。

【新谷】『週刊文春』に関して言えば、紙だろうが、デジタルだろうが、スクープは武器になるという信念は変わらなかった。人間の好奇心にもっともストレートに届きますからね。

——新著『獲る・守る・稼ぐ週刊文春「危機突破」リーダー論』(光文社)では、紙中心だった『週刊文春』が、デジタルでも収益を得られるようになっていく過程が書かれています。ただ、新谷さんには、「デジタルに強い」というイメージはほとんどないですよね。

【新谷】デジタルはむしろ大の苦手ですね。携帯電話はいまだにガラケーだし。iPadは併用していますけどね。でもそういう人間だからこそ、こういう本を書く意味もあるのかな、と。細かいことは分からないぶん、大局が見えるというか、大きな理屈は分かるじゃないですか。私は2012年に『週刊文春』の編集長になったのですが、その前から、すでにデジタルにシフトしなければ生きてはいけないということは分かっていました。

——2018年に編集長を退き、『週刊文春』編集局長になった。そこからですよね、デジタル化の舵取りを任されるようになったのは。

【新谷】変わらないために、変わるんだと思っていました。稼げないと、おそらく、やりたくないものにまで手を出さないといけないじゃないですか。部数を伸ばすためにネトウヨ的な記事をつくってしまうとか。雑誌は売れなきゃしょうがないですけど、それは、やはり違う。

スクープはデジタルにも強いことが裏付けられた

【新谷】創業者の菊池寛は「自由な心持」という言葉をよく使っていたのですが、『文春』が本来持っている精神の自由さ、人間をおもしろがる姿勢は何としてでも守りたいと思っていた。そのために時代の変化に適応した収益システムをつくるのは、文藝春秋という会社を愛してやまない私の責務だと思っていました。

——『週刊文春』のスクープは、ネット上でも、ここ数年、有料化に成功している印象があります。

【新谷】そこは想像以上でしたね。スクープはデジタルにも強いぞということが裏付けられた。紙の売り上げは落ちる中、さまざまな仕組みで収益を出せるようになり、全体の利益はそれなりに維持できている。

ただ、ネット媒体は、PV数を上げることばかりにとらわれるとPVの奴隷になりかねない。芸能人の不倫とかって、やっぱり、ネットの方がはるかに読まれるんです。ただ、そっちばかりに走ると、ニュースサイトが荒れてしまう。

渋沢栄一が唱えた「論語と算盤」で言うと、算盤をはじき過ぎて、信頼やブランドを損ないかねない。かといって、社会的な硬派な記事だけを載せていればいいというものでもない。雑誌媒体は、読んで字のごとく「雑」なところが魅力なわけですから。いろんな人の、いろんな好奇心に応えたいですよね。