情報源が明らかでない「不逞鮮人団の襲撃」記事
東大新聞研の紀要に載った論文は、河北新報の記事の内容も分析している。5日朝刊の以下の記事は「事実無根の流言にすぎない」と指摘している。
「東京における惨害後の混乱はますます激しく、不逞鮮人団が襲撃して各所に争闘を起こし、危険極まりなき状態なので、陸軍では戒厳令発布と同時に、近衛第一両師団並びに宇都宮、高田両師団より一部の兵力を増加し秩序維持に努めているが、なお充分でないというので、三日夜、第二師団に出動命令を下した。」
4日夕刊の以下の記事に対しては「クレジットがついておらず、情報源が明らかでない。しかし、記事の内容からみて、戒厳軍ないし警察筋からの情報である可能性が示唆される。「朝鮮人暴行」流言を朝鮮半島における独立運動と結びつけて「説明」している点で、強い政治的な意図をもったデマゴーギーの性格をもつ流言報道といえる」と指摘はさらに厳しい。
「東京の大惨害は地震と暴風を奇貨とし朝鮮の独立陰謀団が時期到来とばかり爆弾放火の大残虐を断行したという事はいよいよ明瞭となったらしく、かかる大陰謀を企ててることを未然に察知できなかった残触内閣は野垂れ死にとなり、これを幇助した政友会の幹部連が頸を並べて圧死したと伝えられ国民の義憤を避けてるが、宇都宮駅にて逮捕した鮮人の自白により彼等は鉱山または水力電気工事、鉄道工事の人夫に雇われて巧みにダイナマイト類を取しビール瓶等に入れて某所に蔵匿し置き、微妙な暗号符牒にて互いに気脈を通じ、東京を中心に機会を狙って居たが、民心倦怠して緊張せず思想はますます悪化し、内閣の奪取運動に夢中になってる矢先、大地震大爆風大火災にて大動揺となるや彼等の組織せる決死隊は枢要の官衙、銀行、富豪等に対して爆弾放火をなし、やがて無政府状態に陥らしめ、暴動化せしめんと計画し、丸に一は爆弾係、山の形二つは放火係、丸に井桁は毒殺係という符牒を定めたもので、戒厳令を敷かれ軍隊ため追撃さるるや、学生その他に化けて罹災者と共に八方に遁走し、中にも最後の爆弾を試むべく宇都宮駅に下車せんとした鮮人十数名あり、大格闘して内四名を捕縛し、他は死に物狂いになって逃亡し甚だ険悪なので、第二師団にも出動命令あり。四日午後一時十分発列車にて第二十九連隊の(一字欠)部が武装して宇都宮方面へ急行し、また五日午前五時三十分発列車にて工兵第三大隊及衛生隊約五百名が東京方面へ急行するそうだが、本県警察部にても怪しい朝鮮人は全部検束することとし、隣県警察部と相策応するなど警察は徹宵し異例の緊張振りである。」
流言をそのまま伝えた部分のあるのは、確かにその通りだ。だが、この記事を読んだ河北新報の読者が情報源で悩むことがあったとは思えない。