『アイアンマン3』のリードモデラーに

『エルム街の悪夢』の後も次から次へと仕事がやって来た。

勤務時間中まったく無駄口を叩かずひたすら作業をこなしていく私を、メソッドの同僚は変人だと思っていたようだ。そのうち、彼らから「Mawesome!」と言われるようになってきた。これは、アーティストにとって最高の褒め言葉「awesome」(すごい)と、私の名前「Masa」を合体させた言葉である。この言葉を聞くようになって、自分が本当に仲間として迎えられたんだという実感が湧いた。

ただし、メソッドが取って来る仕事には不満もあったから、別の会社からの契約オファーに心が動いたのも事実だ。その会社はスタッフ(正社員)として私を雇ってくれるという。スタッフになれば、健康保険にも入れるというメリットがある。ただしオファーはコマーシャル部門だった。

悩んでいてもしょうがない。意を決してメソッドの上層部に他社から誘われた事実を伝え相談したところ、あっさりスタッフにしてもらうことができた。

その後もメソッドでさまざまな作品に関わったが、仕事に対する違和感は大きくなっていった。モデリングの仕事自体は充実していたものの、VFX全体としての出来が他社に劣っていると感じることも増えてきた。もっと達成感の得られるところで、自分の腕を試したくなってきたのだ。

そんな頃、デジタルドメイン(以前コマーシャル部門で短期の仕事をやったことがある)が大作『アイアンマン3』のリードモデラーを募集しているという情報が流れてきた。作品の中でも一番目立つ「ヒーローモデル」を担当する、まさにCGスタジオの花形だ。スタッフ待遇ではあるものの、期間限定の契約だと言うことが気にかかったが、ダメもとで応募してみたところ、無事採用。主人公のトニーが装着するアーマーを担当することになった。アーマーの内部構造を自分で作り込み、さらに6名のモデラーに対しても指示を出す。

ツテを辿って大胆に自分を売り込む

ところがプロジェクトの途中で、デジタルドメインが倒産するという憂き目に遭う。幸い、作ったモデルは別会社へと引き継がれて映画でも活躍したものの、私は再度無職になってしまった。

2012年から2013年にかけて、ハリウッドには本当にVFXの仕事がなくなっていた。コストの低いロンドンやバンクーバーに仕事が流れていったものだ。

アメリカで仕事をするには、どうすればいいか。

悩んだ末に出した答えが、『スター・ウォーズ』のVFXを担当しているILMに応募することだった。ほかで真似のできない、最高難易度の仕事を手がけるからこそ、ILMはハリウッドで唯一ともいえる大手VFXスタジオになっていた。

もちろん、ILMで働きたいアーティストは山のようにいるから、競争は激しい。応募自体はサイトのフォームから簡単にできるが、それで見てもらえる確率は天文学的に低いだろう。これまでに仕事をしたツテを辿って、ILM社員に何とかコンタクトを試みる。自分の作品をまとめたデモリールを送って、リクルーターにプッシュをお願いする。SNSでつながっているリクルーターにメッセージを送る……。

できるだけのことをやったら、あとはひたすら返事を待つだけだ。その間、家のリフォームをすることにした。雑用をこなしていないと、不安で押しつぶされそうだったのだ。