集中特訓で10年分のギャップを埋める
2008年9月、45歳の私は大手証券会社を辞め、ハリウッドにあるCGスクールの学生となった。目標は、1年以内にCGでお金を稼げるようになり、5年以内にハリウッド映画のエンドロールにクレジットされること。
大それた目標だと思われるだろうが、勝算がまったくないわけでもなかった。10年前、会社勤めをしながらCGを学び、CGスタジオに採用される一歩手前まで行ったことはあるのだ。
しかし、CG黎明期だった10年前とは違い、2008年にはCG人口も爆発的に増え、生半可な腕では業界に入れなくなっていた。全力でCGに取り組んで、10年分のギャップを埋め、さらに業界へのコネクションも作る必要がある。
趣味でのんびりとCG制作を楽しむのとは違う。妻と子供2人を養っていかなければならないのだ。
私が受講したのは3カ月の集中特訓コースで、クラスメートは私を含めて10名(1人は初日で脱落)。イタリア人、ドイツ人、フィリピン人、スイス人、タイ人、インド人、アメリカ人、そして日本人の私という国際色豊かな構成だ。
イタリア人のライバルに舌を巻く
クラスメートは切磋琢磨し合うライバルでもあり、戦友でもある。いっしょにランチを食べながらたわいない話をする一方、わずかなチャンスを巡って争うことになる。
スクールに通っている間、私は脇目も振らずCGで取り組んでいたが、その甲斐あって講師にも注目されるようになった。CGコースの講師は自分のプロジェクトのために「使える」学生をスカウトすることがあり、私もある講師に声を掛けられた。ギャラはなくクレジットだけ入れてもらえる案件だが、CGでの初仕事だから私は舞い上がった。
すると、クラスメートであるイタリア人の1人が「アンフェアだ」と騒ぎ出し、結局私以外にクラスの4名も手伝うことになった。彼らの図々しさには辟易したが、同時にチャンスをものにしようという強い意志には感服したのも事実だ。
コースの終わりには、CGスタジオのリクルーターに対して学生が自分を売り込むイベントが開催される。私はいくつかのCGスタジオとやり取りはしたものの、あえなく玉砕。一方、イタリア人のクラスメート2人は、スクールの就職斡旋担当者に強引に取り入ってCGスタジオを紹介してもらい、ちゃっかりインターンとして採用されていた。イタリア人の行動力と、コミュニケーション能力には舌を巻くしかない。