太りやすい人と太りにくい人の違いはどこにあるのか。医師の桐村里紗さんは「痩せ菌と呼ばれる腸内細菌が活躍している腸内環境であれば、太りにくくなる。瘦せ菌は、ある食べ物で増やすことができる」という――。

※本稿は、桐村里紗『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

スポーツウェアを着たスリムな女性
写真=iStock.com/PonyWang
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抗体はウイルスが変異してもある程度カバーできる

免疫を適切に働かせて感染症を防御するにも、腸内環境がとても大切です。

人を含む哺乳類の身体で、病原性微生物との最大の接点は、「粘膜」です。喉・鼻・気道・消化器・泌尿器・生殖器・目などを含めて、粘膜は全身で400m2(テニスコート約1.5面分)もの広い面積があります。これは、皮膚表面の200倍です。

コロナ対策としても、ここの守りを固めたいわけです。

粘膜では上皮細胞が防御壁となり、その外側を常在細菌がびっしりと覆い、外敵の侵入を許さないようにしているわけですが、粘膜にはもう一つの立役者がいます。それが、抗体「IgA(免疫グロブリンA)」です。

抗体とは、侵入しようとする病原体にくっついて、無力化する免疫物質です。IgAは、特定のウイルスや細菌だけに反応するのではなく、様々な種類の病原体に、割と幅広く反応できる守備範囲の広さが特徴です。

ですから、たとえば、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの型が変異しても、ある程度カバーができるのです。

免疫の要は腸

じつは、全身の粘膜でのIgAの分泌には、2パターンあります。病原体にさらされた局所の粘膜でIgAが分泌される場合だけでなく、腸管を通じて全身で分泌される場合があり、IgAをしっかり作るためには、腸内細菌と腸の周りの免疫細胞の協力関係が欠かせないのです(*1)

食事によって常に外来の病原体や刺激にさらされる腸管は、人の身体にとっては最も防御が必要な最前線です。そのため、腸管には、身体の中で最大の規模の免疫器官が配置されており、「免疫の要は腸」といわれています。

腸管の防御壁の中には、免疫細胞が常に待機している見張り小屋「パイエル板」があります。ここで病原体が感知されると、集結している主要な免疫細胞(樹状細胞、T細胞、B細胞)の連携によって、IgAが作られます。

腸だけにIgAを分泌するのではなく、パイエル板で刺激を受けた免疫細胞(B細胞)が、リンパ管に乗って全身の粘膜に配備され、そこでIgAを分泌する免疫細胞にトランスフォーミングして、IgAを量産して防御を固めます(*2)

IgA分泌に重要な役割を果たしているのが腸内細菌で、セグメント細菌、バクテロイデス属菌、それから乳酸菌やビフィズス菌など各種の共生菌が、この役割を果たしていることが研究されています。

防御壁の外を守る常在細菌と内側を守る免疫細胞は、常に協力関係にあるということなのです。