皮膚も常在細菌に守られている

消化管だけでなく、皮膚の健康にも常在細菌は重要です。目には見えませんが、私たちの皮膚は、全体を共生菌に覆われ、外敵や刺激から守られています。

皮膚は、あからさまに外界と接している境界線です。表皮細胞を防御壁として、その外側は、頭皮から足の裏、耳の穴まで、びっしりと共生菌で覆われています。カビの一種や、毛穴が好きなダニの一種まで棲みついて、ユニークなコミュニティを形成しています。

共生菌である表皮ブドウ球菌やアクネ菌、真菌の一種であるマラセチア菌は、皮脂を分解して、スクワランやグリセリンなどの潤い成分を作り、汗の水分と混ぜて、乳液を作っています。共生菌が正常なバランスであれば、酸を分泌するので、皮膚の環境は弱酸性に保たれているのです。

さらには、天然の抗菌成分を分泌して、共生的な仲間が暮らしやすく、外部の不要な菌を排除する仕組みを作っています。

このコミュニティがうまくいくのは、皮膚が潤っている場合です。

一方で、皮膚は乾燥すると、表皮ブドウ球菌が減り、弱酸性環境が失われてアルカリ性に傾きます。すると、腸内細菌の一種であるプロテオバクテリアなどの菌種や、食中毒の原因菌ともなる黄色ブドウ球菌が増えて、バランスを崩してしまいます。

アトピー性皮膚炎の人の乾燥した皮膚には、黄色ブドウ球菌が増えやすいのですが、この菌は毒素を持つので、炎症を起こし、アトピーを重傷化させてしまいます。

正常な皮膚であれば、天然の抗菌成分が黄色ブドウ球菌の繁殖を抑えているのですが、アトピーの人ではこの抗菌成分の分泌が弱いことも、黄色ブドウ球菌の繁殖を許してしまうことの原因です。

アルコール消毒は炎症やアレルギーを引き起こすリスクに

慶應義塾大学の研究では、黄色ブドウ球菌の繁殖による皮膚の菌のアンバランス自体が、アトピーを引き起こす原因になっている可能性も指摘されています(*6)

その他にも、広島大学の研究で、アトピーの人が汗で痒みを悪化させる原因は、カビの一種であるマラセチア菌の異常繁殖が一因になっていることも分かっています(*7)

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今や感染防御の目的で、一般生活者も日常的に行うようになった殺菌消毒は、病原性のウイルスだけでなく、皮膚の常在細菌をも死滅させる行為です。

とはいえ、皮膚の常在細菌はしぶといので、表面が殺菌されたとしても、毛穴に残ったものが盛り返し、24時間程度で回復するとされています。ですが、今のように、何かに触るたび、また食事のたびに使用してしまうと、回復の余地がなくなります。

また、アルコールは皮脂を奪い、乾燥を招きますから、アルコール消毒による乾燥によって、常在細菌がアンバランスになるだけでなく、皮膚がひび割れることで、表皮細胞による防御壁を崩していることになります。外来の刺激の侵入を許す行為ですので、炎症やアレルギーを引き起こすリスクになります。

使用する際は、保湿剤入りの物を選んだり、ハンドクリームを塗るなど乾燥予防しましょう。

十分な流水や、殺菌効果のない石鹸を使用した手洗いを行えば、常在細菌バリアは守りながら、その上に付着する病原性微生物を洗い流すことができます。殺菌消毒剤は極力肌には使用せず、どうしても手洗いできない状況で、やむを得ず使用するものと位置付ける方が、健全ではないかと考える今日この頃です。

(*1)『腸内細菌学雑誌』2007年、21巻4号、277~287頁。
(*2)『メディカル免疫学』ロアット、ロブソン、デルヴィス著、小野江和則、上出利光監訳、2006年、西村書店。
(*3)Diabetes Care. 2014 Aug;37(8):2343-50.
(*4)Scientific Reports. 2017 Sep 21;7(1):12115.
(*5)Nature medicine. 2019 Jul;25(7):1096-1103.
(*6)Immunity. 2015 Apr 21;42(4):756-66.
(*7)Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2013 Sep;132(3):608-615. e4.

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