金正日前総書記死去の情報が、十分に伝わらなかった

——「情報」は得ることも重要ですが、漏洩から「守り」、効果的に「使う」ことも課題ですね。

ええ。就中、国家の危機管理や安全保障に関する情報は、府省の一部局が後生大事に抱えていては意味がない。とりわけ政策決定者に滞りなく伝え、「備え」や「攻め」に役立てることが重要です。

長く携わってきた北朝鮮問題の例でいえば、私が内閣情報官の人事を内示され、発令されるまでの間に起きたことですが、2011年12月19日に金正日前総書記の死去についての情報が、当時の野田佳彦総理に十分に伝わらなかったという問題が生じました。

——北朝鮮のトップの死は、我が国にとっても情報能力が試され、安全保障に関わる事態ですね。これもある意味で我が国の情報機能の未熟さが出たものでしょうか。

北朝鮮のような閉鎖的な国家の情報収集、分析はどの国にとっても容易ではありません。少し古い話ですが、金前総書記の前、金日成主席の死去にまつわる話からさせてください。

ル・モンド紙「北朝鮮が体制崩壊する」を見て起こした行動

——1994年ですね。

私は在フランス日本大使館の一等書記官でしたが、金日成主席の死去を受け、ル・モンドが、北朝鮮が体制崩壊すると一面トップで伝えたんです。衝撃的な内容で、どういうソースから出ているのかよく分からないが、特定意図で流された情報をつかまされた可能性もある。

エッフェル塔
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しかし、我々としては、金正日後継体制が着々と形成されつつあると認識していたのでル・モンドの記事は極めて違和感がありました。

仮にフランス当局がそのように受け止めているとしたら、いずれそれが我が国にも伝わって混乱し、結局は国益にとってもマイナスになりかねません。そこで、フランスの当局にブリーフの機会を与えてもらって、当方の複数のソースからの検証も経た上での我々の見方を直接伝えました。

世界的に影響力が大きいメディアが出所不詳な情報を元にインパクトあるニュースを伝え、我々と大きく異なる見解だったとき、徹底してその真偽や意図、背景を追究して、必要な場合は関係当局と正確な情報を共有する。これは非常に重要です。特に、北朝鮮のような国家のトップの死は、体制崩壊を含め安全保障環境の変化につながる可能性もあります。