適時開示の対象にならない処分方法を提案

筆者が関係者に確認したところ、そのなかでは太田氏が主張するような「お辞めになってはいかがか」という発言は一度も出てこなかったというし、そもそもこの日のやり取りが、社長に退任を進言する流れにはなっていない。「世代交代」と言いながら、取締役の中で最年少だった近藤忠登史氏(現社長)の名前は、ミーティングの途中で軽く触れられた程度だったという。

現社長の近藤忠登史氏(写真=電気興業ウェブサイトより)
現社長の近藤忠登史氏(写真=電気興業ウェブサイトより)

太田氏の主張には無理があるのだが、筆者はこの時点では、太田氏だけに責任があるなどと一方的に言い募るつもりはない。すでに触れたように、この日のやり取りで太田氏は弁護士として、また社外取締役として、その役割を大きく踏み外してはいないからだ。むしろ事実関係の全体像を把握しないうちから“松澤擁護”を鮮明にした鈴木氏の姿勢こそ企業統治上、問題であろう。

しかし、わずか10日後に開かれた臨時取締役会でまでの間に、松澤氏に対する責任追及は妙な方向へと風向きを変えた。太田氏は「社外でのハレーションを避けるため」として、松澤社長に対しては適時開示の対象にならない処分方法を提案し、一時は監査法人への連絡さえ控える方向で助言して、問題を取締役会会議室に封じ込めようとした。

そして社外取締役が外部の弁護士にまとめさせた調査報告書は「松澤社長のセクハラを放置していた社内取締役にも責任がある」とするベクトルで作成された。

次回は株主の負託を受けて経営を監視・監督するはずの社外取締役が、冷徹な経営判断を離れて立場をどう変えていったのか、具体的なやり取りとともに抉り出してみせよう。

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