筆者が特報した「オリンパス事件」と重なる構図
鈴木氏はSMBC日興証券の副社長だった人物であり、同社は電気興業の主幹事証券である。鈴木氏と松澤氏の付き合いは「30年に及ぶ」(関係者)というから、電気興業が本社機能を置いている東京・丸の内の新東京ビルに、当時の日興証券が本社を置いていた頃からの付き合いであろう。経営トップが知人や取引先を社外取締役に招き、企業統治が機能不全を起こす。この構図は、筆者が特報した「オリンパス事件」と重なる。
しかし鈴木氏の場合、それだけにとどまらない。鈴木氏が電気興業から完全に独立した社外取締役であるかと言えば、それは疑問だからだ。たしかに外形上は社外取締役を務める基準を満たしてはいるが、鈴木氏と電気興業の距離の近さは異様でさえある。
鈴木氏の長男は電気興業の中枢で部長職を得ているうえ、鈴木氏が社外取締役に就いた後、その実弟も電気興業で勤め始めている。鈴木氏が代表を務めるSUZUKI NORIYOSHI OFFICEは電気興業と同じ新東京ビルで一つ下のフロアに陣取っており、利益相反が疑われる同OFFICEの取引を問題視する声が、電気興業内でも上がった。
「社長の業務執行権限を社内取締役に一時預けよ」
話を元に戻そう。松澤・太田・鈴木の三者会談では、調査期間中の社長の職務をどうするかについても話が及んだ。この時の太田氏は<社長が会社に出て来て、指示すると調査に影響が及ぶ恐れがあるので、社長の業務執行権限を社内取締役に一時預けよ>と提案した。
「仰るとおりに致します」と従う松澤社長に対して、太田氏はこう提案している。
――私たちで考えていたのは社内取締役の合議機関を作ることで、権限をそこに預けることにすれば、誰かひとりの権限が突出しなくていい。もちろん社長の方で意中の人がいれば、それでよろしいと思う。
松澤社長は「立場的には……」と、社内ナンバー2の石松康次郎専務の名前を挙げた。その後、松澤社長はこのミーティングで石松氏の名前をさらに二度、三度と挙げ、最終的には、
――ほとんどの役員は担当部門の専任になっているので、経理部長とか人事部長とか、総務部長などと石松で合議の形をとるのが一番いいだろう。
そういって、自ら決めている。二人の社外取締役は了承し、この日の三者会談は終わった。