社長の責任を追及したら、反対に降格させられた
東証一部上場の老舗電機メーカー、電気興業が深刻なガバナンス不全に陥っている。
6月25日、筆者はプレジデントオンラインで「『実力社長のセクハラを咎めた役員が次々とクビに』名門メーカー電気興業の大混乱」という記事を出した。電気興業の松澤幹夫社長(当時)が女性社員にセクシャルハラスメントを行ったという内部告発を受けて、社内調査が行われた。その結果、事実関係が認められ、役員らは松澤氏に退任を迫ったが、企業統治上の問題を抱える同社は反対に責任を追及した役員らが降格させられ、さらに代表権のない会長に退いて生き残りを図ろうとしている、という内容である。
記事掲載後の7月6日、筆者は「週刊エコノミストオンライン」で、社長退任と後任社長指名の緊急動議が提出された際の取締役会議事録のバックデータとなる発言録を全文掲載した。するとこの臨時取締役会に参加していた社外取締役で弁護士の太田洋氏から、「警告・申入書」がエコノミスト編集部に送られてきた。
そこには「本件記事における評価とは相反する事実で、当然認識されているはずの重要な事実に敢えて触れなかったり、誤った事実を記載したもので、強く抗議するとともに、記事の撤回を求めます」「山口義正氏(筆者のこと)ではなく、中立的・良識的な記者により小職に対するインタビューも含めた事実確認を十全に行って頂いて……」と記されていた。
電気興業と太田氏の説明には明らかな矛盾や誤謬がある
筆者の質問状を無視しておきながら、記事が出ると、慌てて「警告・申入書」を送り付け、しかも筆者には会いたくないという。
いいだろう。「誤った一方的な記事」(「警告・申入書」より)と言うのであれば、関係者の証言や物証に従って、電気興業と社外取締役の欺瞞を白日の下に晒そう。電気興業で何が起きていたのかを雄弁に語る内部資料や音声データは、上記の臨時取締役会の発言録だけではない。それらを毎週ひとつずつ公開しても、年内に連載が終わらないほど残弾数は豊富にある。それらはことごとく「電気興業と太田氏の説明には明らかな矛盾や誤謬がある」と言っている。
太田氏はエコノミスト編集部に対し、「1月31日に松澤社長に会い、『セクハラの件もあるし、社長を長く務めたのだから、そろそろ退任してはどうか』と進言しており、社外取締役としての役割を果たした」と説明した。しかし筆者の取材によれば、1月31日の太田氏と松澤氏のやり取りの中に、社長退任を勧める発言はまったくない。その日の模様を詳述しよう。