「目利き力が陰った」と言われるが…

投資先にはウーバー、グラブ(ライドシェア)といったすでにベンチャーの域を超えた企業がある。加えて、フィンテックやDNA解析などの先進技術とAI技術を掛け合わせたユニコーンが並ぶ。いずれも成長途上の海のものとも山のものともわからない企業ばかりである。金融機関のファンドマネージャーだったら敬遠するような会社もある。

しかし、そうしたユニコーン企業を少しでも多く成長させることが「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の目的だ。AIを活用して、さまざまな業界を変革させていく企業をサポートすることで、AI革命を推進していくためのファンドだ。

ところが、マスコミはそうは書かない。「孫の目利めきき力が陰った」と書く。シェアオフィス運営のウィーワークへの投資がかさんだこと、前経営者が不祥事を起こしたことばかりを取り上げる。

2020年9月、リスボンの通りに駐車されたウーバーのバイク
写真=iStock.com/Neydtstock
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しかし、ウィーワークは、日本ではビジネスが堅調だ。そして、他の投資先のなかには上場した会社もあれば投資した金額をすでに回収した会社もある。従来型の金融機関主宰ファンドと比べても遜色のない成績を上げている。孫正義の目利きの力が鈍ったという表現には裏付けがないと思える。

そして、ファンドの力として忘れてはならないのは、孫が見いだした企業は他の投資家たちもまた注目するという事実だ。例えばインドのベンチャー企業に誰よりも早く注目して投資したのは彼だ。他の投資家は孫の後を追ったに過ぎない。

「それはやっぱり…、狂ったほどの情熱ですよね」

私はインドのベンチャー起業家に会って、話をしたことがある。彼はこう言っていた。

「日本人に投資してもらいたい。そうすれば世界の投資家が付いてくる。そして、できればミスター・ソンに投資してもらいたい」

アメリカ人が主投資家だったら、イスラムや中国人が投資しないことがある。中国人が主投資家だったら、今度はアメリカ人がお金を出しにくい。その点、日本人が金を集めてくれれば、どこの国の人間も投資できる。そして、日本人投資家の筆頭はミスター・ソンだ……。

お金を出してもらう側もちゃんと合理的に考えている。どんなお金でもいいとは思っていない。

このように、日本人は投資家に向いているのだけれど、しかし、日本の銀行、金融機関、大企業が組成したファンドが大成功したとか、日本企業が買収した海外企業が成長した話はあまり聞いたことがない。

例外があるとしたら、EV(電気自動車)のテスラ草創期に投資したトヨタくらいのものだろうか。

そうして、何をしても、孫正義は叩かれるのだけれど、それでも彼は主張する。

「(事業の成功に)何が必要なのか。それはやっぱり……、狂ったほどの情熱ですよね」