さて、日本ソフトバンクはパソコンやインターネットの普及とともに成長していき、98年には東証一部に上場を果たす。
当時の主な業務はソフトの卸売、パソコン雑誌の出版事業に加え、96年に合弁会社として設立したヤフー日本法人がやっていた、インターネット関連のビジネスだった。
その後、2000年までの2年間、彼は衛星放送に出資したり、ナスダック・ジャパンを立ち上げたり、日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)の株式を取得したりしている。いずれも失敗ではない。しかし、投資会社としての看板になるようなビジネスではなかった。当時の孫正義は積極的に仕事を進めてはいたが、心のうちには焦燥感があっただろう。
ジャック・マーの話を6分聞いただけで「20億円」
今でこそ、ソフトバンクといえば誰もが携帯電話会社であり投資会社であると思っている。しかし、06年にイギリスの携帯電話会社ボーダフォンの日本法人を買収するまではさまざまな事業を行っている会社というイメージだったのである。
1999年、孫正義は中国へ行き、将来性があると思われたIT企業の社長を20人招き、1人10分間ずつ面会した。そのなかにいたのがアリババ集団の創業者、ジャック・マーだった。
孫はプレゼンを6分、聞いただけでマーが望んでいた額よりも多い20億円の出資を決める。
以後、急成長を遂げたアリババ集団は2014年にニューヨーク証券取引所に上場する。時価総額は25兆円。筆頭株主だったソフトバンクグループが持つ含み益は約8兆円になった。
以後の彼は若いIT起業家を応援するために投資を続け、10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を創始するまでになった。アリババ集団に対する出資から時間を経て、18年以降ソフトバンクグループは投資会社としての色彩を強めていった。それを念頭に置くと、ジャック・マーと出会ったこと、マーへの投資が彼の第2の決断の瞬間だったことになる。
「数字を見るよりも感じるということ」
彼には投資するときにチェックするポイントがある。
「事業の分野が非常に大きな市場規模の可能性を持っているというのが一つ。それから、それに対する取り組み方のモデル、ビジネスモデルが素晴らしいこと。そして、会社が実行する経営陣と強いリーダーシップを持っていて、これがいけそうだという予感がフツフツと湧いてくること」