イスラム法を現実に適用させるための工夫

これが、啓典の民の国から輸入された肉がハラールであることを示したファトワーである。

これはイスラム法大学の学長が示したファトワーで、その点では権威あるものと見なされる。

島田裕巳『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)
島田裕巳『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)

だが、絶対的なものではない。同じ問題に対して、別のイスラム法学者が異なるファトワーを発する可能性はある。

ただ、ここには、イスラム法を現実に適用していく上で、イスラム法学者が工夫を施している様子が示されている。

イスラム教徒の宇宙飛行士が宇宙でどのように礼拝するかについては、マレーシアでイスラム法学者の会議が開かれた。

そこで出された見解によれば、礼拝の方角は宇宙飛行士に任せ、無重力ではひざまずくことができないので、それを強制しないとされた。また、宇宙飛行が断食月にあたっていたことについては、帰還後に延期もできるとし、実施する場合には、打ち上げ基地の時間を基準にすればいいとされた。

厳格な姿勢を示し、イスラム教徒が屠った肉でなければハラームだとしてしまったら、日本にいるイスラム教徒は相当に窮屈な状況を強いられる。日本でハラールな肉を探すのは容易なことではないだろう。自分で屠るわけにもいかない。

縦社会の日本、組織の発達していないイスラム教の世界

こうしたイスラム教のあり方を見ていくと、私たち日本人は随分と面倒くさいと考えるかもしれない。物事が決まっているのかどうか、その判断が難しいからである。

日本人なら、組織を作って、そこで規則を決める。その方向に向かうだろう。とくに、日本の社会は「縦社会」の傾向が強い。縦社会では、上の者の指示や命令に下の者が従うことが原則になっている。

しかし、組織の発達していないイスラム教の世界では、ここまで述べてきたようなやり方をとって物事を進めていくしかない。サウジアラビアのように、国家が決めた規則に従わないと、それで罰せられるようなところもあるが、そうしたイスラム教の国は一部に限られる。

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