望む未来は「現実的な思考」と「日々の積み重ね」の先にある

私が「2020年8月、47歳で仕事の一線から退いてセミリタイアをする」という目標を掲げ、それを予定どおり達成できたのも、毎日の地味な仕事を積み重ねていった結果に過ぎない。

30代のころから「40代のうちに仕事漬けの生活を離れて、悠々自適に暮らしたい」と考えていたが、その目標を現実的に捉えて「2020年8月」と明確に線が引けたのは、過去の想定よりも資産が順調に増えていったからである。自分の望む未来は、夢というふわふわしたものではなく、極めて合理的で現実的な思考に基づいた逆算がなければ手にすることができないのだ。

ここまでで、私が「夢」にどれほど懐疑的かおわかりいただけたかと思うが、一方で「願望」を持つことは非常に大切だと考えている。

ここでいう「願望」とは、目標を達成したときに得られる特典のようなもののことだ。私の場合、セミリタイアをした先に何を得たかったかといえば「釣り」「虫捕り」「農業」「電車に乗らずに済む生活」だ。現在、東京から佐賀県唐津市に引っ越すことにより、農業以外は達成できた。農業についても近いうちに達成されることだろう。

唯一の「夢」が叶った瞬間

結局、私は一生で一度も「夢」を持たなかった。いや……ひとつだけあったな。それは「作家の椎名誠氏から仕事を依頼される」である。

単純に「一緒に仕事をする」だけなら、こちらからインタビューのオファーを出すなどすればわりと簡単に達成できただろう。しかし、夢はあくまでも椎名氏にこちらを認めてもらい、椎名氏の側から依頼を頂戴する、ということだった。

インタビューを受けたりした際に「憧れの人は?」といった質問をされると、私は一貫して「椎名誠さんです」と答え続けてきた。そして2015年、同氏の“青春三部作”の二作目にあたる『新橋烏森口青春篇』の文庫版が新たに小学館から刊行されることとなり、解説と帯コメントの執筆を編集者から依頼されたのだ。椎名氏から直接連絡を受けたわけではないが、私はこの依頼に感激し、とても光栄に思った。

おそらく椎名氏と編集者のやり取りのなかで「誰かいい候補者はいる?」と椎名氏が尋ね、「はい、中川淳一郎という人が、椎名さんの作品をほぼ全部読み込み、文体もマネするほど私淑しているそうです。青春三部作も折りに触れて読み返しているというから、この本の解説に適任なのでは」などと伝えてくれたのだろう。その提案を「いいんじゃない」と受け入れてくれたのだと思われる。