安く使いたい者、稼ぎが欲しい者、ピンハネする者の三角関係
スリスさんは鉄工所で、午前8時半から残業を含め午後7時まで週6日働いていた。時給は950円で、相場よりもかなり安い。彼女に不法就労先を斡旋した業者がピンハネしているようなのだ。
彼女はこう語っていた。
「仕事を斡旋してくれたのは、インドネシアのブローカーから紹介された日本人です。給料は会社から現金で受け取りますが、ピンハネされているかどうかまではわかりません」
鉄工所の仕事は重労働で、日本人の働き手を集めるのは大変だ。
スリスさんの同僚には、同じく不法就労中のインドネシア人が3人、ほかに6人のベトナム人実習生がいた。実習生も最低賃金レベルで雇用できるが、小規模な事業者は年3人までしか受け入れられない。そこで鉄工所は不法就労の外国人まで雇い入れ、日本人の人手不足を凌いでいた。
一度も学校に行っていない「留学生」
ベトナム人のタン君(20代)は2016年、留学生として中部国際空港に降り立った。だが、留学先の日本語学校には一度も行っていない。
空港に出迎えてくれたブローカーの手引きで、翌日から不法就労先の工場で働き始めた。そして現在まで、摘発されることなく愛知県内で仕事を続けている。来日時、日本語学校の学費などで背負っていた約150万円の借金も、ずっと前に返し終えた。
「最近になって、不法就労で捕まるベトナム人が増えています。僕だっていつ捕まるかしれない。それまで、できるだけお金を貯めるつもりです」