モヤがかかって見えるときは眼底出血のケースが多い

Q なるほど、ぼんやりとしか見えないときは、重篤な病気が隠されている可能性が高いのですね。

A そうです。モヤがかかったように見えるのは、眼底に出血しているケースが多いです。眼球の一番奥にある網膜と、そのさらに後ろ側にある構造を総称して「眼底」と呼びますが、網膜の手前にあって眼球内を満たす透明なゼリー状の「硝子体」を含めて、広い意味で「眼底」と呼ぶこともあります。そのため、網膜や硝子体に出血が起こることを「眼底出血」といいます。

出血が少量であればまったく症状が出ないこともあります。しかし、網膜の中心にあって、モノを見るための視細胞が集中している「黄斑部」が出血でおおわれると、真っ黒で見えない部分が出ます。

また、卵の白身のようなゼリー状の物質である「硝子体」に出血が及ぶと、黒いもやもやした影が見えたり、墨汁を流したようにぼんやりとしか見えなくなったりします。

「糖尿病性網膜症」で網膜が出血するのは、代表的な眼底出血の1つです。

目を診る医師
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眼底の動脈が詰まったら一刻を争う

Q 眼底出血以外でも急に見えなくなることはありますか?

A 眼底出血の主な原因の1つは、目の奥の血管が詰まることです。「血栓」(血のかたまり)によって血管が詰まることがありますが、その背景には「動脈硬化」があります。「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」などの生活習慣病を抱えていると、動脈の血管壁が硬く厚くなり柔軟性が失われ、動脈硬化が進みます。さらに血管の内側(内皮)に脂肪分が蓄積していくと、血栓ができやすくなるのです。目の外から血流に乗って血栓が流れてきて、目の動脈で詰まると、出血は起きませんが急に見えなくなります。

私のクリニックにも「昨日まで普通に見えていたのに、突然、ぼんやりとモヤがかかったようになりました」と来院された40代の女性がいました。この女性は目の動脈が根本で詰まってしまう「網膜中心動脈閉塞症」という失明率が非常に高い病気でした。私は同じ病気の患者さんを数多く診てきましたが、ほとんどの人は失明しています。失明した人に共通するのは「見えにくいけど少し様子を見よう」と考えて、すぐに眼科を受診しなかったことです。

網膜は脳と同じ神経細胞でできているので、血流が止まると数時間で死滅してしまい、再生不可能となります。様子見をせず、すぐに眼科を受診したうえで、適切な処置を受けても間に合わないことさえ多いのです。

この40代女性の場合、朝症状に気づいて、午前中には私のクリニックを受診。すぐに血栓溶解薬を点滴するなどして治療し、幸いにも視力を失うことはありませんでした。私の眼科医人生の中で、この病気で失明しなかったのは、この女性を含めて3人だけです。この女性は、その後も3人の娘さんとともに、定期検診を受けています。

「急にぼんやり見えるようになった」と、突発的に起こる症状は失明につながる病気が多いです。どうか様子見はせず、症状を自覚したらすぐに眼科を受診してください。

視界がぼんやりとしてきたら
・一刻を争う場合もあるので「様子を見よう」などと思わず眼科を受診。