次官経験者にある共通項

財務官僚の中でもトップエリートといえる次官経験者だが、それぞれ十人十色の人生経験をしている。ここで取り上げた人達だけでも絵に描いたようなエリートコース一直線ではないことを理解してもらえるだろうし、回り道組が6割以上を占めることもそれなりに納得がいくのではないか。

岸宣仁『財務省のワル』(新潮新書)
岸宣仁『財務省のワル』(新潮新書)

高級官僚、とりわけ財務官僚には、「挫折を知らないエリート集団」というイメージが常について回る。だが実際は、寄り道せずに最短距離で財務省に入るより、多少回り道した人のほうが最後の栄冠を手にする確率が高いのは、どんな理由によるのだろう。

無論、その疑問に明確な答えなどあるはずはないが、次官経験者をはじめ何人もの財務官僚に質してみたり、自分が接してきた彼らの人となりを整理してみると、ある共通項が見えてくる。

それは人として考えれば当然の結論ともいえるが、心の温かさが滲み出る人間味であり、もっと砕けた言い方をすれば、愛嬌や可愛げといった人間性の豊かさを示す何かである。

財務官僚に限る話ではないが、どんな世界でも回り道をした人のほうが、人間味を感じさせるプラスアルファを持っているケースが多い。

一年、二年の浪人や留年で大袈裟ではないかという指摘もあろうが、一度失敗しても挫けずに淡々と頑張る日々の中で、おのずと培われる人としての優しさのようなものはあるはずだ。まして十代後半の傷つきやすい青春の一時期であれば、想像以上に大きな影響をのちのちまで人格形成に及ぼすことは十分考えられる。そして、この人間味に付加される愛嬌、可愛げという要素は、組織を生き抜くうえで重要な潤滑油になり得る。

国家試験一番が次官になる確率

パナソニックの創業者である松下幸之助は、社員を採用する際の条件として「運と愛嬌」を重視したといわれるが、東大法卒中心の同質性の高い財務省のような組織では、とくに政治家の中でも二世や官僚出身ではないたたき上げの議員との付き合いで、この部分が意外な効果を生むことがあるという。

腕一本でのし上がってきたこのような議員は、財務官僚に対して、はなから「いかにもエリート面した、いけ好かない奴」という態度で接してくる。そのギクシャクした緊張感を取り除かないと、日々の根回しにも支障が出るが、こんな会話が緊張を解きほぐすきっかけになることがあるそうだ。

「どうせ、君達はエリートだからな」

「いや、先生、私も一年浪人してそれなりに苦労しました」

「へえ、君らでも浪人なんてするのか」

そんなやり取りが契機となって気心が知れ、根回しがうまく進むようになったと聞いたが、こんな一面も政治家からすれば、鼻持ちならないエリートに見られがちな財務官僚の愛嬌や可愛げに映るのかもしれない。

人間味や愛嬌などですべてを言い尽くせるわけではないが、ある一面は鋭く突いていると思う。あえて単純な物言いが許されるなら、偏差値教育による学校秀才と組織でもまれる社会人秀才とは別物、ということを言外に示唆しているのではないだろうか。

35人すべてに直接確認したわけではないので、軽々な結論を下すのは差し控えるべきかもしれない。が、私の取材が正しければ、現役は言うに及ばず公務員試験一番で次官にまで昇格したのは吉野良彦ただ一人である。率にして、3%に満たない。単なる学校秀才では、三十数年間の出世レースを勝ち抜いて栄光の椅子に辿り着くのはやはり難しい。

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